GREEN×GLOBE Partners

記事

地域防災と生活のインフラシェア

Date: 2022.11.08 TUE

  • #気候変動

  • #ソーシャル

日本総合研究所 瀧口信一郎

近年地震や台風などの自然災害による被害が増加し、2011年の東日本大震災以降、毎年2.33.9兆円の国の予算が「災害復旧」につぎ込まれる一方、地震・津波・風水害・火山災害・雪害・火災など幅広い災害に備える「災害予防」にも1兆円近い予算が投じられています。中でも、災害時の避難先となる公共避難場所(学校、医療施設、公園、体育館、グランドなど)を地域防災拠点にし、緊急時の食料備蓄、飲料水供給のための受水槽整備を行う「防災拠点整備」が重視されています。ダムや堤防の治水対策、下水道の浸水対策を含む治水インフラを建設する「国土保全」予算が、ピークである1998年の2.9兆円から5,000億円程度にまで低下しているのとは対照的です[*1]。

防災関係の国家予算額 図:令和3年版 防災白書|附属資料33 年度別防災関係予算額をもとにGGP作成

しかし、起こってしまった災害の復旧は当然としても、いざという時の準備に国や自治体がお金を無尽蔵につぎ込むわけにはいきません。予算が限られていることが、防災拠点のどこまでも完璧となりきれない根本的な要因ではないかと思います。

予算を制約しながら対策を進める上で重要なのは、防災拠点を日常生活にどう溶け込ませるかです。災害時のみならず、平常時の活用も進めることで、設備稼働、ひいては経済性を高められます。したがって、公共機関に閉じるのではなく、民間企業や地域との協働を進め、日常活用している交通や電力の生活インフラを共通化し、社会コストを抑えることが鍵になります。すなわち、地域防災と生活のインフラをシェアするのです。

示唆を与えてくれるのが全国に整備された「道の駅」です。東日本大震災で救命・救急活動、物流集配、住民避難、食料供給の役割を果たした実績を踏まえ、国土交通省は道の休憩所や観光拠点に加えて防災機能を強化する方針を打ち出し、2021年に全国39箇所の「防災道の駅」を選定しました[*2]。1993年「安心して休憩できる場の提供」、2013年「道の駅自体を目的地や地域の拠点化」、2020年「地方創生・観光を加速する拠点化」と機能を拡張してきた道の駅を「防災拠点」にしようというのです。今後、災害復旧のための物流拠点化、貯水槽の整備、電力確保のための蓄電池の整備、災害情報システムの整備が進められます。

国土交通省が全国に39カ所指定した防災道の駅

防災拠点をカーシェア事業など、地域の移動手段の拠点として日常的に活用したり、そこに集まる電車や電気バスの蓄電池を災害時に活用することも考えられます。屋根置き太陽光発電の激増で予想される昼間の余った地域の電力を夜間利用して、電気自動車・電車・電気バスの蓄電池を充電することができます。また、建物に設置した定置用蓄電池は日常だけでなく、災害時の移動用や電力供給にそれらを活用することが考えられます。

鳥取市では人口減少が著しい佐治川ダム周辺エリアで効率的に地域の防災性を高めるため、太陽光発電や水力発電の電力を活用して電気バスの導入や蓄電池の設置を行うことを計画しています[*3]。

防災拠点には、情報にアクセスできない人や通信基盤にアクセスできない人のために、情報を提供したり、Wi-Fiへのアクセスを容易にする通信基盤の提供などの役割も求められます。地域の災害情報の共有は、時代に応じて見直すことも必要であり、現在では普段から使うSNSSocial Networking Service)の活用が有効です。SNSに疎い高齢者が集まる病院、スーパー、集会所には、代替的な機能を用意することも補完的には必要かもしれません。

都市部でも、防災拠点は、新たな不動産開発を行う際に不動産価値に大きく影響する要素として重要性が増してきます。頑丈に見えるタワーマンションでも、停電で会談を上り下りする羽目になったり、浸水が起こる事態が発生し、住宅購入者の防災に対する関心は高まっています。ハザードマップは、場所によっては不動産価格の下落につながっていますが、防災拠点の充実は不動産価格の向上にもつながり得ます。今後、不動産デベロッパーにとって、地域防災と生活のインフラシェアは重要な視点となると考えられます[*4]。

民間企業や住民が生活に不可欠な資産を地域でシェアし、日常的に使いながらコストを抑え、安心・安全を高める地域防災の取組みは今後ますます増えていくでしょう。

*1 予算の金額は、令和3年版 防災白書|附属資料33 年度別防災関係予算額を参照
https://www.bousai.go.jp/kaigirep/hakusho/r03/honbun/3b_6s_33_00.html
*2 国土交通省「防災道の駅について」
https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001408488.pdf
*3 鳥取市「脱炭素型地域公共交通モデル構築による公共交通の確保」
https://www.city.tottori.lg.jp/www/contents/1582762570856/files/shiryou.pdf
*4 「水害等の災害に備えるための都市・住宅の強靭化」研究会、不動産協会
https://www.fdk.or.jp/f_suggestion/pdf/2020_flood_houkoku.pdf

  • TOPに戻る

関連記事