インタビュー
森林経営と企業活動のこれから(後編)——森林経営管理の現場より
Date: 2023.02.24 FRI
#気候変動
#地域共創
#自然資本
兵庫県宍粟市波賀町上野で、ひょうご農林機構が管理する約14haのスギ・ヒノキ林。列状に伐採を行ったばかりのところは、木の並びが粗となっている 特記なき写真撮影:生田将人
神戸の中心市街地から車で2時間、兵庫県宍粟市波賀町の山間地にある手入れの行き届いた分収林。日本総合研究所の村上芽氏がこの現場を訪問し、森林の管理運営を行うひょうご農林機構の塩谷嘉宏森林緑化部長にお話を伺いました。前編で森林クレジットがもたらす可能性を語った日本オフセットデザイン創研の浦上尚己代表(兼務ひょうご森林林業協同組合連合会)と共に、森林経営のこれからを展望します。
左から浦上尚己氏、塩谷嘉宏氏、村上芽氏
国産材の有効活用と環境保全にむけた実践
——ひょうご農林機構は2022年、組織統合されました。統合の目的や意義を教えてください。
塩谷:農村地域の人口減少や高齢化で農村社会の疲弊が危惧される中、農業、林業、そしてその担い手が一体となって、地域資源を最大限に活用した地域づくりが重要です。ひょうご農林機構は、これらの課題をワンストップで支援するために、公益社団法人ひょうご農林機構と一般社団法人兵庫県農業会議が一緒になってそれをやろうということで組織統合を図りました。
林業に関しては、ひょうご農林機構の前身である兵庫県造林公社が1960年代から分収造林事業[*1]を行っていました。県内の約2万haの山林の管理をしており、地域の方々に代わって、スギ・ヒノキなどを植林して管理をしており、県下の人工林の1割を占めています。
——貴機構は、日本全体で取得率が10%以下の森林認証を取得しています。そのメリットは何だとお考えでしょうか。貴機構が取得し継続できているのはなぜですか?
塩谷:2005年に取得しましたが、その背景には、農林機構で育てた木を活用してもらうために、その木がどこの山から出てきて、どのように管理していたかという情報を発信することで、木を利用して頂く方々との信頼関係を築く必要性があったからです。
認証経費もかかる中で継続しているのは、私たち公的機関が森林所有者に代わって植林し、長年にわたって管理しているため、その管理の考え方や体制をきちんと見える形で事業を行うことが重要だと思っているからです。
——SDGsへの意識が高まり、中・大規模木造建築なども増えています。林業に追い風が吹いていると感じます。
塩谷:国内の森林資源が充実しているので、国産材への期待は高まっていると思います。国産材の利用が増えないのは、決して輸入材より高いからではありません。戦後復興の木材不足で輸入材に頼らざるをえない時代が続いた結果、現在の市場や流通、建築スタイルやデザインが輸入材の枠組ででき上がってしまいました。ようやく国産材が利用できるようになったけれど、品質(乾燥材)や強度、供給力の面で、エンドユーザーのニーズに応えきれていないというのが実態だと思います。
一方、前編で浦上さんが指摘したように、林業は赤字であることが多い。きちんと事業として成り立たせていくためには、市場から評価を受け、収入が増加するような経営基盤をつくっていかなければいけないと思います。そして、森林所有者や林業従事者にしっかりその価値を還元しないとなりません。
また、林業側も努力しなければなりません。いかにして低コストで木を切り出すか、林業機械の導入や効率的な施業の方法などを工夫しているところです。
——貴機構で、経済林・環境林・自然林と分けているのは、事業性を高めるためでしょうか。
塩谷:そうですね。われわれが管理している約2万haの森林を、経済性や公益性を考慮して、2010年頃から収益性の高い順に経済林、環境林、自然林の3つに区分して管理をしています。
経済林は収益を得るためのもので、家の柱など建築資材になるスギ、ヒノキです。林道からアクセスが良く生育も良い森林で、2万haのうちの1.2万ha、60%くらいを占めています。伐って使って、また植えて育てるという循環を繰り返していくものです。
環境林もスギとヒノキですが、経済林よりやや条件が悪く収益性が劣る森林。全部伐採するのではなく、間伐したり部分的に伐採したりして、伐採した跡地は自然の力で広葉樹林に変えていく管理で、3000ha、15%くらいです。木の販売価格が下がって、収益が採算割れすると、経済林も環境林に区分が変わります。
自然林は、尾根部などにマツが植えられたところです。土壌条件が悪く、マツしか育たない場所でしたが、マツクイムシ被害で枯れた跡に広葉樹林に移り変わっているのですが、あまり収益がありません。これが5000haと25%を占めています。
——気候変動や生物多様性の観点からも森林の保全は重要だと思います。
塩谷:農林機構では、分収造林事業のほかに、里山の景観維持、シカやイノシシなど獣害被害に対して、野生動物の隠れ場となる山裾の森林整備、土砂災害から集落を守る災害に強い森づくりに取り組んでいます。本来、森林は山崩れを防止する働きがありますが、木を伐らずに大径木化すると、台風やゲリラ豪雨で、その木が倒れたり流れだしたりして被害を拡大させることもあります。そうした被害を最小限にするため、同じ樹種の木だけではなく、多様な樹種を混交するなど、森林の配置や整備の方法も今後考えていかなければなりません。
多様な人材が関わる新時代の林業経営に向けて
——大手機械メーカーでもSDGsに取り組み、林業機械に注目する動きが活性化しています。機械化やDXの現況を教えてください。
塩谷:林業の世界では、若い林業従事者を中心としたDXが進み始めています。地形が急など条件の悪い山の中でも、ドローンやGPSを使って少人数で測量ができるようになるなど、身近なところからIT化している段階です。
現場では機械化も進んでいて、伐採から枝払い、製材用に寸法をそろえてカットするなど一連の作業を行っています。しかし大切なことは、これらの技術を林業経営に反映していける人材の育成を並行して進めていくことだと思います。
整列して並ぶ樹木の4列を残して1列を伐っていく「四残一伐」という伐採方法。一回の手入れで20%の木を効率的に伐っていく。写真は見学用にチェンソーで人が伐採しているが、近年では、立木を重機のアームの先で掴んで伐採する機械化も進んできている。
機械で枝払い
運搬しやすいように3〜4m長さに揃えて重機がカット。根本や先の部分は製材にはならずバイオマス燃料などになる。
撮影:GGP
——今後林業はどのような方向に注力すべきでしょうか。また、若い世代のビジネスパーソンに伝えたいメッセージを教えてください。
塩谷:林業が成り立つためには、森林所有者や林業従事者など林業に関わる事業体にしっかりと価値を還元して次世代が安心して受け継ぐことができる林業経営を目指さなければなりません。そのためには川上側の生産者(林業事業体)、川中の加工者(製材業者)、そして川下の販売者(ハウスメーカーなど)が、お互いに適正な利益を得られる関係づくりが必要だと思います。たとえばウッドショック(木材不足、木材価格の高騰)の時、輸入木材に対抗できるチャンスだったと思いますが、多くの林業事業体が対応できませんでした。そうしたことを考えると「川下側の市場が何を求めているか」といった情報がリアルタイムで山側にも伝わるサプライチェーンが必要になってくると思います。
浦上:そうですね。市場と山をどのようにつないでいくかという視点が必要だと思います。そのためには、林業従事者だけでなく、マーケティングなど多様な人材が関わってくるとよいと思います。
また、前編でお伝えしたとおり、森林クレジット創出、販売のためのプラットフォームFC BASEが設立されます。クレジット創出について、全国の森林組合などに出向いて情報提供できる専門知識をもった人材を増やしていきたいと思っています。
塩谷:兵庫県には県立森林大学校があり、卒業生は森林組合や製材所、行政などに就職していきます。彼らの横のつながりがあるネットワークに加え、今後さらに、他の業種や地域などともつながりが広がればと期待しています。
(2022年11月9日 兵庫県宍粟市にて)
見学現場の地図。青い線で囲まれたところが間伐対象地。赤い点線が作業用の道路。茶色い部分が経済林、緑が環境林 図提供:ひょうご農林機構
[*1]分収造林事業:土地所有者と造林者(ひょうご農林機構)との契約により、造林者が植林から成林するまで管理し、主伐時に販売して得られた収益を土地所有者と造林者とで分配する事業。植林から伐採までに要する全ての経費は、造林者が負担し(借入金)、配分された収益で借入金を返済する仕組み。