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株主資本主義からの脱却(前編) ——ベネフィットコーポレーションとBCorp認証とは何か

Date: 2023.04.12 WED

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日本総合研究所 橋爪麻紀子

B Corp認証を受けた企業が利用できるマーク 画像出典:B Lab United States & Canada

日本政府は「経済財政運営と改革の基本方針2022」において、欧米のベネフィットコーポレーション等の法制度にならい、日本でも民間で公的役割を担う新たな法人形態に関する必要性を検討することに言及しました。これに合わせるように、2022年度は、国内企業による「B Corp認証」の取得が進み、メディアなどでも取り上げられることが少しずつ増えています。この「ベネフィットコーポレーション」と「B Corp認証」は、前者は法人格であり、後者は民間の認証制度です。しかし、その名前からか混同されやすくなっています。いずれも「良い企業」であることは同じではあるものの、それぞれの共通点や相違点を理解し、ふたつの仕組みが、より日本にフィットした形で広がっていくことを期待し、以下にまとめました。

「新しい資本主義実現会議」の参加委員の各資料でもこれまで何度かベネフィットコーポレーションというキーワードが用いられてきました。では、ベネフィットコーポレーションという法人格の定義はどのようなものでしょうか。アメリカのいくつかの州では頭に「パブリック」をつける場合もあり、これを英語から日本語に直訳すると「公益法人」のように、一見非営利セクターの法人格のように聞こえてしまいますが、実際はそうではありません。

その定義は「営利目的だけでも、非営利目的だけでもない、事業所得を生み出すと同時に明確な社会目的を最優先とする企業」〈*1〉とあります。ここで重要なポイントは、事業所得を生み出す「営利企業」であることであり、決して非営利企業ではない、という点です。本分野における海外の有識者の意見を伺うといずれの国でも、非営利ではなく、営利企業による公益活動であることを強調しています。国や地域・州によっても多少手法や表現は異なるものの、その特徴は大きく3点あり、①会社の定款に自社が追求する公益の定義がしてあること、②公益への貢献に関し、ベネフィットレポートによる情報開示をしていること、③すべてのステークホルダーに配慮すること、があげられます。

州ごとに会社法が異なるアメリカでは、2010年にメリーランド州での導入を皮切りに、2021年までに約40州の会社法でベネフィットコーポレーションが規定されています。各州の法律は異なる内容で、作成のベースになっている法律モデルは数種類存在します。なぜそうした法人格が必要とされるのでしょうか。米国の文脈では、企業が株主利益の最大化といった株主至上主義から脱却し、社会目的を果たすことが求められる過程でこうした法人格が必要とされたと言えます。なぜなら、企業が公益と利益を追求し、あらゆるステークホルダーの利益に配慮するという活動に対して、法人格として公益を追求することが定款に記されていれば、社会的活動等に対し、株主からの批判に合うこともありません。法的側面から企業の公益活動を保護することが可能になるからです。

米国以外のベネフィットコーポレーションに準ずる法人格

スペイン Sociedades de Beneficio e Interés Común (SBIC)
フランス Enterprise a Mission
イタリア Societa Benefit
コロンビア・エクアドル Beneficio e Interés Colectivo’(BIC)

(各国によって解釈、要件などは異なる)

ベネフィットコーポレーションの法人格を制定するために大きな役割を果たしたのが、米非営利団体の「BLab™」です。BLabは「社会におけるビジネスの役割を定義する」ことを目的に、2006年に米ペンシルバニア州で設立され、その翌年にB Corp認証を公表しました。B Corp認証は、独自で開発した評価システムであるB Impact Assessment(BIA)によって、従業員、コミュニティ、環境、顧客、ガバナンスの5分野に関する企業の社会や環境に関する取組み状況に対する評価を行うものです。BIAで5分野の合計得点が80点以上に達した企業に対し、3年間の有効期限でB Corp認証を付与することになっています〈*2〉。認証取得した企業は商品やウェブサイトなどに「B」のロゴを利用することができるようになります。

B Corp認証の取得のメリットは、まず、グローバルでの厳格な基準による評価により、その取り組み姿勢を投資家や取引先、従業員にアピールできることがあげられます。消費者や採用活動におけるブランディングにもつながります。さらに、企業が取り組むプロセスにおいて社会や環境に関する取り組みへの学びも大きいといわれています。認証の取得を通じて、取得企業によるグローバルなコミュニティへ参加できることも大きなメリットとして捉えられています。

B Corpのムーブメントは世界各地で広がっています。2023年3月末時点で、世界89か国161業種、計6529社が認証を取得しており、ヨーロッパやアジアといった地域内の連携に始まり、各国でB Labが続々と設立されています。各B Labは当該活動国の状況に応じて、B Corpムーブメントの形成や、広報・ロビー活動などを実施しています。そして、一定のB Corpの普及、認知が進んだ国でB Labが手掛けてきたのが、ベネフィットコーポレーションの法人格の制定のためのロビー活動です。各地で積極的に法律家や政治家、投資家などを巻き込み、米国各州、イタリア、スペイン、南米諸国などにおける法制度の整備に至るまでのムーブメント形成に取り組んでいます。法制度の整備は、BIAをクリアしたB Corp取得企業による公益活動に対し、「法律を味方にする」ことを意味しています。極端に言えば、短期的には収益に直結しない企業の公益活動に対し、株主等から批判されることを法的に防ぐことができることを意味しています。

*1 Heerad Sabeti、Spotlight on the good company. The for-benefit Enterprise.、Harvard Business Review, Novemver, 2011
*2 現在B LabはBIAの大幅な改訂作業を進めており、2023年中には公開される予定である。

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