解説記事
株主資本主義からの脱却(後編) ——ベネフィットコーポレーションとBCorp認証がもたらす可能性
Date: 2023.04.12 WED
#グローバル動向
#ソーシャル
#ESG投資・開示
『B Corpハンドブック よいビジネスの計測・実践・改善』バリューブックス・パブリッシング刊 撮影:平松市聖(Ichisei Hiramatsu) 提供:バリューブックス・パブリッシング
ベネフィットコーポレーションとBCorp認証の比較、そして補完関係
B Lab™が公表している情報に基づくと、ベネフィットコーポレーションとB Corp™認証は下表のように比較できます。両者は、法人格の取得による公的な認知と、民間の認証制度による質的な担保といったようにある種の補完関係にあると言えるでしょう。その一例として、B LabのB Corp認証基準の要求事項によれば、ベネフィットコーポレーションやそれに類似の法人格が制定されている国・地域の場合、その法人格を取得することはB Corp認証取得の必要条件になります。もちろん、そうした法人格が制定されていない国や地域の場合(本稿執筆時点での日本も含む)は、認証取得における条件設定はありません。例えば、米アウトドアブランドのPatagoniaは2011年にB Corp認証を取得しています。その後、2012年にカリフォルニア州で法制度が制定されたため、B Corp認証を継続することを目的に、同州のベネフィットコーポレーション第1号として再法人化しています。仮に日本でベネフィットコーポレーションが法制度化される場合は、既にB Corp認証を取得している企業側での対応が求められる可能性があるでしょう。
B Corp |
ベネフィットコーポレーション |
|
役員の責任 | 役員はすべてのステークホルダーに対するインパクトを考慮しなければならない。 | 左に同じ。 |
透明性(情報開示) |
企業はすべてのインパクトを第三者認証に基づいて測定した公的な報告書(ベネフィットレポート)を公開しなければならない。 | 左に同じ。ただし、ベネフィットレポートの記載や運用方法は国や地域によって異なる。 |
パフォーマンス | BIAで80点以上のスコアの取得が必要条件。3年に一度、更新された基準に基づいた再認証が必要となる。 | 原則、自己申告制がとられている。 |
取得可能性 | 営利企業であれば、全世界のいかなる企業でも取得可能。 | BCが法制化された特定の国、または特定の州で取得が可能。 |
コスト | 売上規模に応じて毎年500ドルから50000ドルまでのB Corp認証費用が必要。 | 申請にかかる費用は国や地域によって異なる。(例:米国でも州によって70$~200$と異なる。) |
B Labの役割 | 企業に対する認証と、ムーブメントを支える非営利活動の支援。B Corp認証ロゴ、サービスのポートフォリオ、グローバルな実践コミュニティの提供。 | 立法モデルを開発。現在は新たな国や地域でのBC立法への働きかけを行っている。要求される透明性を満たすための無料のレポーティングツール等も提供する。企業を監督する役割は果たさない。 |
出所:The B Corp Handbook(原文および和訳〈*1〉)を参照して著者作成
日本におけるこれからのムーブメントの可能性
政府のベネフィットコーポレーションに関する今後の検討方針は、本稿執筆時点では明確になっていません。2023年2月末時点、日本国内ではようやくB Corp認証企業が20社程度になったばかりです(BeTheChangeJapan調べ)。ベネフィットコーポレーションの法制度が制定された、または検討されている他国の例では、B Corp認証の認知・普及とともに法制度の整備にむけた多様なステークホルダーによるムーブメント形成が進められてきた経緯があります。日本ではまだそのような大きなムーブメントが起きる状態に達しているわけではありません。しかし、B Corp認証企業が今後も増加していけば、米国のAllbirds(シューズ)やLemonade(保険)のように、B Corp取得企業でかつベネフィットコーポレーションの法人格を有する企業の新規株式上場や、または大企業との提携・友好的な買収事例なども国内で発生していくことも考えられます。政府による法制度の検討の如何に問わず、企業がB Corpのような認証を活用し環境、社会面での取り組みを進めることは、サステナビリティ経営や、サステナブルファイナンスによる資金調達の実現にも貢献し得る取り組みです。新しい資本主義の波によって国内でも動き始めた「B」のムーブメントに乗り遅れることのないようにウォッチしていきましょう。
*1 『B Corpハンドブック よいビジネスの計測・実践・改善』バリューブックス・パブリッシング刊、2022年