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IPCC第6次評価報告書を読み解く(前編)—— 「統合報告書」とは何か

Date: 2023.07.07 FRI

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日本総合研究所 新美 陽大

2023320日、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)はスイス・インターラーケンで開催された総会にて6次評価報告書(AR6)の統合報告書を採択しました。今日、IPCCの報告書は気候変動に関する科学的知見のレファレンスとして、様々な場面で活用されており、国際的な関心がいっそう高まる中での公開となりました。
この「統合報告書」を読み解くための、3つのキーワードと3つの特徴をご紹介します。

まず、「IPCC」「AR6」「統合報告書」とは何か、この3つのキーワードについて個別に見ていきましょう。

IPCC
気候変動に関連する科学的評価を担当する国連機関として、WMO(世界気象機関)およびUNEP(国連環境計画)により1988年に設立された組織です。IPCCの役割は、気候変動に関する科学的評価を政治指導者に定期的に提供することであり、そのために世界中の科学者が参加して気候変動に関する最新の科学的知見を評価し、定期的に報告書を作成・公表しています。現在は195か国が参加しています。

AR6
「第6次評価報告書」(6th Assessment Report)を示します。IPCCでは1990年に初めての評価報告書を公表した後、最新の科学的知見を収集・評価する作業を続けており、5~8年ごとに新たな報告書を公表してきました。このような科学的知見の収集・評価、および報告書の作成・公開に至るまでのプロセスは評価サイクルと呼ばれ、今回は2015年にスタートした6回目の評価サイクルに当たります。

統合報告書
気候変動分野の研究は多岐に亘るため、IPCCは分科会(WG:ワーキンググループ)を設置して評価を分担しています。現在では、自然科学的根拠を担当した第一作業部会(WG1)、気候変動による影響や適応策・脆弱性を担当した第二作業部会(WG2)、緩和策を担当した第三作業部会(WG3)および温室効果ガス排出量の測定方法を担当するインベントリータスクフォース(TFI)の4つの分科会が設置されています。各WGは2021年から順次、WGごとの評価報告書を公表しており、さらにIPCCはこれらの報告書とは別に3件の特別報告書を公表しています。今回の統合報告書は、その名前が示すとおり、IPCCが6回目の評価サイクルにおいて作成・公表したすべての報告書の内容を基に、いわば“総決算”として取り纏めた内容となっているのです(図1)。

図 1 IPCCの組織図および関連報告書 出典:IPCC・環境省公開情報を基に筆者作成

IPCCが作成・公表する報告書の特徴は、以下の3点に整理することができます。

1の特徴は、メタ分析の手法を採っていることです。IPCCは自ら研究を進める組織ではなく、あくまで世界中の研究者による研究結果を収集して、俯瞰的に評価する役割に徹しています。その結果、あらゆる研究成果を踏まえた結論として「何が分かったか」に加え、「どの程度確からしいか」も併せて評価結果として公開しています。気候変動予測のように、将来を確実に予測することが理論上不可能とされている分野においては、このように確からしさも併せて評価することは、正しく情報を伝える手段として有効だと考えられます。

2の特徴は、構造物的な性質を持っていることです。改めてIPCCの評価プロセスを辿ると、まず作業部会ごとに多様な研究成果について評価を行い、その結果を基に作業部会ごとの報告書を作成し、さらに作業部会ごとの報告書を再構成して統合報告書を作成します。多様な研究成果をどのように組み上げるか、研究成果から評価、個別の報告書、統合報告書に至るプロセスを辿ると、IPCCの報告書があたかも高層ビルのように、理路整然とくみ上げられた構造物と見えてくるのではないでしょうか。

3の特徴は、「政策決定者向け」を謳っていることです。統合報告書を含め、IPCCの報告書の多くには「政策決定者向け要約(SPMSummary for Policy Maker)」が作成・公開されています。第2の特徴を踏まえると、IPCCは政策決定者に向けたメッセージを報告書で直接執筆できないため、評価結果の構成によってSPMに仕込んでいるのでは、と筆者は推測しています。

AR6統合報告書のSPMは、約30ページとコンパクトに纏められていますが、IPCCのメッセージが詰め込まれた中身の濃い文章となっています。本記事ではAR6統合報告書を読むきっかけやヒントとなるべくキーワードや特徴をご紹介しました

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