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社会的営利企業を増やすために—— B Corpムーブメントから学ぶ—— 「社会的価値創造」シリーズ第1回

Date: 2024.08.16 FRI

  • #グローバル動向

  • #ソーシャル

  • #ESG投資・開示

日本総合研究所 橋爪麻紀子

社会課題が拡大・深刻化する中、企業には経済的価値の創出だけでなく、社会的価値の創造も求められるようになっています。

今回からSMBCグループが考える社会的価値創造のかたちについて、様々な具体例を交えながら「社会的価値創造」シリーズと題した全3回の連載で、お伝えしていきます。執筆は、日本総合研究所の研究員が担当します。

著者のチームは現在、国内のB Corp™(ビーコープ)ムーブメントの拡大にむけた支援をしています。B Corpとは、環境や社会に配慮しながら、社会的価値を創出する「良い企業」であることを示すグローバルな認証制度です(詳細は関連記事を参照)。世界で約8,900社、日本で42社が認証を取得しています(20247月時点)。

このムーブメントを支援する目的は、B Corpのような社会性と経済性を両立し得る社会的営利企業(for-profit social enterprise)を社会に増やすエコシステムをつくることです。そのためには政策、制度、金融、経営等のあり方を変革し、社会的営利企業の存在が個人の「消費」、「投資」、「働き方」、「学び方」といった様々な価値観と行動を、よりサステナブルに変容させていくことを目指しています。あえて営利(for-profit)と謳う理由は、非営利団体や収益を生まない社会貢献活動ではなく、収益を確保する営利企業であることを伝えるためです。

世の中には、企業の環境や社会への配慮を可視化する多様な仕組みがあります。いわゆるESG評価機関による企業の格付けもあれば、組織、特定の製品・活動に対し、第三者の評価を獲得する仕組みもあります(表1)
下表はグローバルなものの一部ですが、これにローカルなものを加えれば無数の仕組みが存在します。
B Corpもその一つにすぎませんが、どの仕組みが適しているのかは、自社がどうありたいのか、特定の製品や活動を誰に理解して欲しいか、によって異なるでしょう。

1:企業の社会性を可視化する仕組み

評価対象
名称
組織
B Corp認証, Economy for Common Good
特定の製品・活動
MSC認証、FSC認証、国際フェアトレード認証、エコテックス®認証、ISO認証、SBT認証、EcoVadisSocial Accountability 8000
出所:著者作成



この中で、私たちがB Corpを応援する理由の1つに、B Corp認証の広範かつ細やかな評価項目があります。
具体的には、ガバナンス、コミュニティ、従業員、環境、顧客の5分野をカバーし、200以上の確認項目で実績値やエビデンスを必要とする設問が多数含まれています(表2)。厳しい基準を満たし、多様なステークホルダーに配慮する企業だからこそ、冒頭に述べた個人の「消費」、「投資」、「働き方」、「学び方」に関する価値観と行動を変える力があるのではないかと考えています。

2B Corpの評価項目の例

ガバナンス
ミッションステートメント、内部統制、倫理規程、財務管理、腐敗防止対策の状況など
従業員
常勤、非常勤、派遣社員、時短など、企業で働く多様な人々の福利厚生、賃金、労働環境、人事評価など
コミュニティ
管理職・従業員・取引先における多様性、事業地域のコミュニティ等に対し、どのような貢献を行っているかなど
環境
自社の温室効果ガス排出量、廃棄物量、有害物質の排気量、水や電気の使用量、環境認証を受けた製品の利用、再生可能エネルギーの利用など
顧客
製品・サービスが、顧客や受益者の社会的・経済的問題に対処しているか、顧客満足度のモニタリング、苦情受付体制、改善活動など

出所:B Impact Assessmentを参照し著者作成

2024年は世界各国の選挙イヤーですが、日常において様々な選択をすることは、実は投票に似ています。なぜなら、特定の製品を消費する、特定の雇用主の下で働く、特定の企業と取引する、といった選択は、自分が信じる価値観に「投票」する行動でもあるためです。

B Corp推進団体のB Labは、2018年の米中間選挙後、「Vote Every Day」と名付けたマーケティングキャンペーンを実施しました(図1)。「B Corpの商品を買おう」、「B Corpで働こう」、「B Corpと取引しよう」といったメッセージや、特定のB Corp認証企業と協力し、「Vote with your soapB Corpの石鹸を買おう)」「Vote with your IPAB CorpIPAビールを買おう)」「Vote with your styleB Corpの服を着よう)」というメッセージを、市民に訴えました。

期間中にB Corp商品専用の販売棚やオンラインストアを設置した小売業では、個社だけでなく複数社のB Corpの商品を揃えることで、より多くの消費者にB Corpのブランド認知を得られたと言います。日常にB Corpという選択肢を加えることで、個人に環境や社会のことを意識してもらおうと、異業種が合同で発信したメッセージやイベントが評価され、一連のキャンペーンは世界的な広告賞を運営する米非営利団体The One Club for Creativityのアワードを受賞しました。

図1:Vote Every dayキャンペーンの広告の一部 出所:B Lab, “2020 Vote Every Day Activation Guide”

2023年に北米地域でB Labが実施した調査[*1]によれば、全回答者の約1/3B Corpを認知しており、特に18歳から39歳のミレニアル・Z世代の認知は約1/2近くまで高まりました。そして、B Corpを認知していた回答者の約1/3が、B Corp製品の購入を他者へ推奨したことがある、と回答しています。私たちの日常では、多岐にわたる企業の製品やサービスで溢れ、誰もが日々選択を迫られています。その際に、企業や個人に(例えばB Corpのような)共通の価値観を醸成することが、エコシステムを共創する第1歩です。

B Corpの認証取得を最終目的とするのではなく、各企業がB Corpの価値観を他の企業や個人へ伝え、共感した企業や個人がさらに外へ広げていくことで、「消費」、「投資」、「働き方」、「学び方」に変化が生まれていきます。

著者は日本でもこうしたエコシステムができることを目指し、 B Corpの認知向上に貢献していきたいと考えています。


*1B Corp Brand Awareness in 2023

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