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大企業にも広がるB Corpムーブメント——戦略的な活用方法とは

Date: 2023.10.05 THU

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日本総合研究所 橋爪麻紀子

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(前編)ベネフィットコーポレーションとBCorp認証とは何か
(後編)ベネフィットコーポレーションとBCorp認証がもたらす可能性

世界でB Corp™(ビーコープ)ムーブメントが加速しています。2020年に約3,700社であったB Corp認証の取得企業数は、2023年9月末時点で、約7,500社に達しました(下図表参照)。日本の状況は、2023年9月末時点では31社と海外に比べれば小さな動きですが、うち13社は2023年に入ってからの認証取得であり、その注目が高まっています。

出所:2022 B Lab Global Annual Report - InfogramおよびB Lab Globalウェブサイトを元にGGP作成

B Corpとは、環境や社会に配慮しながら、インパクトを創出するビジネスを進める「良い企業」であることを示す企業認証です。2006年に設立された米非営利法人B Labが開発した認証制度で、頭文字のBは“Benefit for all(すべての人に恩恵を)を意味しています。

B Corp認証を得るには、まず、B Lab™の評価システムであるB Impact AssessmentBIA)を受けることが必要です。BIAは、従業員、コミュニティ、環境、顧客、ガバナンスの5分野の設問があり、認証を取得したい企業は、200点満点のうち80点以上を取得する必要があります。 詳細な認証プロセスや取得メリットなどは本稿では割愛しますが、BIAの結果をもとにB Labとの面談、書類審査等を経て、3年間の有効期限でB Corp認証を付与されます。認証取得後は、毎年、環境や社会の取り組みやKPI(重要業績評価指標)に関する情報開示が求められ、3年後の更新時には前回より高いBIAスコアが求められます。つまり認証取得がゴールではなく、それをスタートとして更なる改善を目指していることが1つの特徴と言えるでしょう。

B Corpと言うと、中小・スタートアップ企業よりの認証制度と捉えている方もいると思います。実際に、B Labのウェブサイトで認証企業の傾向を見ると、全認証企業のうち、250人以下の従業員数の企業は全体の93%を占めます。従業員数の多い企業が全体に占める数は少ないものの、大企業からのB Corpへの関心は高まっています。そうしたトレンドをふまえ、B Lab2020年から大企業へのB Corpムーブメントへの参加促進を目的としたB Movement Builderと呼ばれるプログラムを主導し、各国の大企業の参画を促進する活動を進めています。

後述するダノンやナチュラ&コーなど、早くからB Corpに取り組んだ一部の企業は、B Labのパートナーとして、B Corpを目指す大企業へのメンター役を担っています。本稿執筆時点で、当プログラムへの参加を公表しているのは、ボンデュエール(フランス:食品)、ゲルダウ(ブラジル:鉄鋼)、ジボダン(スイス:香料)、メガル(ブラジル:小売)であり、いずれも年商10US米ドル以上の大企業です。

自社がB Corp認証を取得するだけではなく、B Corpを戦略的に活用している企業の例と、注目すべき点を以下に紹介します。

ダノン(フランス:食品) :パーパス実現に向けた全子会社のB Corp

同社は、「社会の発展なくして、企業の成功はない」という企業哲学に基づき、世界120を超える市場で展開する子会社すべてがB Corpを取得することを目指しています。20236月時点で、約75%の連結売上がB Corp認証を取得した子会社であることを公表しています[*1]。
昨今注目されているステークホルダー資本主義がより主流化するならば、このような、パーパス実現のツールとしてのB Corpを活用する企業も増えていく可能性があります。

ナチュラ&コー(ブラジル:化粧品): 企業グループの共通言語としてのB Corp

同社は2014年に上場企業としては初めてB Corpを取得したナチュラ(ブラジル)の親会社にあたるホールディングス企業です。現在はザボディショップ(イギリス)、エイボン(イギリス)とナチュラの3つのB Corp企業を傘下とした、B Corpとして世界最大級の企業グループです。2030年のサステナビリティビジョン「コミットメント・トゥ・ライフ」では、気候変動や人権、サーキュラリティに関する目標を設定し、その取り組みを進めています。
目標の多くはBIAの設問とも関係深いものが多く、グループ一丸でインパクトの把握と開示を進めています。このような、多国籍な複数ブランドを有する企業グループのガバナンスのため、B Corpはグローバルな共通言語として活用されています。

レキットベンキーザー(イギリス:消費財):CVCB Corp

同社は世界60カ国で活動するトイレタリー分野の消費財メーカーです。そのコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)であるAccess VCB Corp認証を2023年に取得しました(親会社は未取得)[*2]。
これは、CVCとして、パーパスドリブンで社会的価値と経済的価値の両方を創出する投資を行い、それを通じて本業の社会的価値を高めることを目指すものと言えます。昨今、自社のCVCの投資活動と本業のサステナビリティ対応との一貫性を重視する企業も増えるなか、B CorpCVCがどのような投資活動を行うのか、今後注目したいと思います。

ブリッジズ・ファンド・マネジメント(イギリス:ファンド運用):投資先のスクリーニングとしてのBIA活用

同社は2002年に設立され、インパクト投資に特化した運用機関です。2015年にB Corpを取得し、自社の投資ポートフォリオのスクリーニングにBIAを活用しています。例えば、古本リサイクルを行う投資先World of Booksに、投資前にBIAを実施した後、それをきっかけとして新たなCO2排出量の目標設定や、本の配達に関わる走行距離や燃料削減の取り組みが進み、収益の創出にもつながったという例もあります。
同社のように投資機能を有する企業のB Corp取得は、ベンチャーキャピタルやコミュニティ銀行などでも見られ、投資側の社会や環境に対するインパクトを創出する意図を表すものであると言えるでしょう。

事例にもあるように、企業はB Corpを活用し、自社の従業員や顧客だけではなく、子会社、投資先、取引先に対しても良いインパクトを与えるための視点を得ることができます。企業規模が大きいほど、規模に比例して従業員数や子会社社数も多く、サプライチェーンも長くなる傾向から、ポジティブ面でもネガティブ面でも与えうるインパクトが大きくなりますが、それはより多くの人から見られているということでもあります。

昨年、ある大企業がB Corpを取得した際、過去に同社が環境や人権の側面で批判を受けた事実から「その企業に認証を与えてもよいのか」「がっかりした」という議論が起きたこともあります。また、別の例では、認証の取得後に、社内の不当な労働慣行が労働者によって暴露され、認証が取り消しになった企業も存在します。つまり、大企業がB Corpを活用することは、より大きなインパクトを創出し得る一方で、その企業の不祥事やウォッシングのような行為が発覚した時には、批判されるだけではなく、B Corpのコミュニティやブランドを毀損してしまうネガティブなリスクも大きいということを理解する必要があります。

今後、国内でもB Corpの企業数がさらに増加していけば、海外のように、大企業による認証取得への取り組みや子会社のB Corp化、B Corpからの積極的な調達活動、BIAを活用した投資行動なども増加し、B Corpのエコシステムが形成されていくことが想定されます。大企業はそのエコシステムを拡大するプレイヤーとして、自社のブランディングやマーケティング活動としてではなく、他のB Corp企業と、協力してこのコミュニティに参画し、環境・社会へのネットポジティブな成果を拡大させていくことが求められるでしょう。

*1 出所:ダノンジャパン、Bコープ再認証を取得 | ニュース | ダノンジャパン | ダノンのヨーグルトサイト | DANONE JAPAN
*2 出所:About Us | Access VC

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