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GGP Edge Program 2023を振り返る——いま求められる社会的価値の追求(前編)

Date: 2024.09.13 FRI

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東京渋谷の hoops link tokyo2024731日、GGP主催で「いま求められる社会的価値の追求~企業の成長にもたらす意味とは~」と題するトークイベントを開催しました。サステナビリティへの取り組みはビジネスチャンスとなるのか——。
2023年度にスタートしたGGP Edge Program*1]を振り返りながら、事業変革と企業の成長について意見交換を行いました。

前半は「次世代経営者」をテーマに、Edge Programの選考委員を務めた京都大学の山田仁一郎氏と日本総合研究所の村上芽氏による講演。後半は2023年度にプログラムに参加した3社より、フーディソン取締役CFOの内藤直樹氏、Tesera代表取締役社長の内田武彦氏、三和物産代表取締役社長の西河誠人氏をお招きし、プログラムを経て見えてきたサステナビリティと社会的価値の創造についてパネルディスカッションを行いました。

* 1 GGP Edge Program  事業活動を通じた社会的価値創造に取り組むGGPパートナーの環境・社会課題解決への取り組みを支援するサービス。2024年度の募集要項はこちら

山田仁一郎氏

アントレプレナーシップ(企業家活動)研究の第一人者である山田仁一郎氏の講演は、気候変動によって大きく変化している社会の常識や規範を、いかにビジネスチャンスにつなげていくかを洞察するものでした。

山田氏は、これからの起業家に求められるものとして、地球の環境問題に取り組む「グリーンアントレプレナーシップ」を取り上げます。グリーンアントレプレナーシップとは、「持続可能なビジネスモデルと自然環境変化に適合的な技術・製品・サービスを創出し、既存の事業構造の変革を目指す企業家的活動」です。

山田氏は、そうした活動が全世界的に増加している現状と、各国での取り組みのトライアンドエラーの状況を紹介しました。こうしたトレンドは「産業革命以降の帰結点」と位置づけられ、今後もグリーンやサステナビリティという概念が企業にとってより重要であることが示されました。

グリーンアントレプレナーシップの多様な指向と各国の状況 図提供:山田仁一郎

では、グリーンアントレプレナーシップをどのように実践していけばよいのでしょうか。

山田氏はSDGsを例にあげて、その困難さを説明します。「SDGsの枠組みは社会課題を焦点化して事業課題と結びつけられる。しかし、ひとつひとつの課題を考えると“持続可能”と“開発”など、両立するための矛盾にぶつかる。そもそも両立は難しいと考えながら、機会を見出していくことがグリーンアントレプレナーシップの出発点」だと。

また、サステナビリティの3つの支柱として自然環境、社会、経済を示し、それらを同時に追求することのチャレンジも指摘します。「社会が変化する難しい状況だからこそチャンスがある。矛盾する連立方程式に対して、解決策を模索し、どういう行動をするかが問われる。そうした経営者のアントレプレナーシップを発揮することが次の時代を動かす」と山田氏は示唆しました。
そして「ステークホルダーに対してどれだけ積極的に自分たちの信念や理念、哲学を語っていけるか」と明確なストーリーを掲げることの重要さを強調しました。

サステナビリティの3つの支柱

「サステナビリティ時代のグリーンアントレプレナーシップは、地球規模の挑戦課題(グランドチャレンジ)の一歩」と山田氏は位置づけます。共同研究の成果の一部に基づいて、これからのグリーンアントレプレナーシップにとっては以下の5つが基本命題であると言います。

①多面的なトレードオフ関係の再構築
②多様な主体の協働を通じた集合革新
③企業家活動の世代間協働
④漸進的解決と革新的解決の同時追求
⑤補完的な「利害調整メカニズム」の必要性

「グリーンアントレプレナーシップは一つの世代や一つの会社だけで完結できるものではなく、多様な世代や多様な主体を通じた視野を持たなくてはなりません。その変化はインクリメンタル(斬新的)とラディカル(革新的)の同時追求が必要で、政府や大学、研究機関とも連携し、調整メカニズムをいかに図るか——」(山田氏)。

地球沸騰の時代。サプライチェーン全体の脱炭素を実現するSCOPE 2やSCOPE 3を見据えた、グリーンアントレプレナーシップによるグランドチャレンジは、経済的かつ社会的に大きな価値を生み出すに違いありません。

村上芽氏

京都議定書が採択された1997年頃から「地球温暖化への対策がなぜ進まないのか疑問に思っていた」というのは、日本総合研究所でESG投資やSDGsについて研究する村上芽氏です。企業による社会貢献やサステナビリティへの取り組みについて、そのトレンドを掘り下げます。

まず、地球の気候変動への対策が遅れた背景には“環境問題の複雑”さがあると村上氏は指摘します。因果関係が明確でなくグローバル社会やサプライチェーン全体の課題となっているため、1つの国や企業で対処できることではないということです。

しかし、日本ではESG元年と呼ばれる2015年に潮目が変わります。SDGsやパリ協定が採択された年で、「それまで端っこにあったサステナビリティへの意識が、企業の中枢にやってきた」と村上氏は表現。ESG投資の拡大と共に「環境問題に対しては、企業は“悪いところを正す”というリスク回避の姿勢だったのに対し、“環境や人権、労働問題などのリスクに上手に対応することが、企業にとっての機会(チャンス)になる”という発想に転換していった」(村上氏)のです。

環境問題への危機感に加え、リーマンショック後の短期主義への反省もあったと村上氏は分析。
「環境・社会・ガバナンスという長期的な視点を持つことが企業経営にとって良いと考えられるようになったのです」。

その後、環境問題への対策が加速するかと思われましたが、残念ながらコロナやウクライナ侵攻、ガザ危機などがその道を阻むことになります。「停滞もしくは悪化している。感染症と気候変動、紛争がトリプルパンチで効いてきて、今は厳しい状況だ」というのが村上氏の見方です。

ESGやサステナビリティという言葉が浸透したことにより、新たな課題も生まれています。「特に欧州を中心に、サステナビリティへの対応が“儲かる手段”としても広く認識されると、グリーン・ウォッシュ等の問題も生じ、消費者保護が必要になる局面も出てきた」と村上氏は指摘しました。

また、「問題に対峙して行動している人、仕事だからやっている人、興味をもたない人など“分断化・極化”が起こっている」とも。「(その間を)どうやって楽しく埋めていくか——」と村上氏は社会全体に必要な問題意識を投げかけました。

さらに、脱炭素のために化石燃料を手がける企業から投資の引き揚げを行うのではなく「どのようにエネルギー源を変えていけばよいか、一緒に考える姿勢も大事」と、より多様な主体で気候変動問題に挑む必要性を示唆しました。

SDGs中間時点での進捗状況 出典:国連統計局 “The Sustainable Development Goals Report 2024” P4

SDGsは2030年に向けたものですが、村上氏はポストSDGsに向けて注視しておくべき課題として「人口動態と気候変動」の2つをあげます。

世界的には人口増加はするものの出生率は下がり人口拡大のペースは落ちていきます。日本は少子化の一途をたどり、現在は世界人口に対して80人に1人以上が日本人ですが、段々と割合が下がっていきます。その一方で環境制約は厳しくなります。

2031年以降を考えるキーワード 図提供:日本総合研究所

その中で日本企業はどのように振る舞うとよいのでしょうか。

「海や山といった国土や都市鉱山も含めた固有の資源を活かすことが大事」と村上氏はサーキュラーエコノミー的な視点を示します。また、障がいのある人や女性、子どもも「一人ひとりが活きる」社会像を提案。本質的で長期的な気候変動対策も欠かせないと言います。

図提供:日本総合研究所

最後に、これまで企業がESGに取り組むことで定着しつつあり、さらに伸ばしたい考え方を村上氏は3つの視点で整理しました。流行語としてのESGではなく、何を22世紀に向けて活かすのか——。

視点①多様性:企業のステークホルダーは誰か?
ESGを意識することで自分たちの企業がステークホルダーからどう見られるかを考えるきっかけになったのではないか」と村上氏。
若い世代にとっては当たり前のジェンダー平等を定着させたり、未来を担う子どもとの関係を見直したり、多様性を重視することで企業が成長していくことに村上氏は期待を寄せます。

視点②ネットポジティブであるためのリスク評価
先述の通り、ESGにはリスクと機会の両側面があります。
「“ビジネスを通して◯◯に貢献します”という一方で、環境負荷、人権侵害、汚職・腐敗などを起こさないビジネスを行う。このリスクと機会の両方を意識し、明確に示すことができるかがますます大事になってくる」と村上氏は言います。ESGの浸透により投資対象や選択肢が多様になる中、これからの企業活動にとっての矜持と言えます。

視点3:③資金:大胆に変革するビジネスへのシフトとともに
ESGも投資から企業に浸透していきました。SDGsやサステナブルな企業活動に対し「支援する金融機関も増えている。これからどんどん活かしていける」と村上氏。
ESG投資家やインパクト投資家も増え、ポジティブインパクトファイナンスや、グリーンボンドなど選択肢も増加し、金融市場がサステナビリティに注視している現状を示しました。


(2024年7月31日、hoops link tokyoにて 文:中村睦美 特記なき写真:村田和聡)

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