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現代の生きづらさとは?──Z世代の感性や価値観を起点に、社会のリデザインを構想するワークショップを開催

Date: 2025.12.16 TUE

  • #ソーシャル

  • #初学者

2025年9月11日、GGPはロフトワークと共同で「これなら“アリかも”と思える社会のつくりかた ~現代の生きづらさをZ世代の視点でリデザインするワークショップ~」と題したイベントを開催しました。

私たちは、VUCAと呼ばれる予測困難な時代に生きています。そんな現代社会において、とくにZ世代は「どう生きることが正解なのか分からない」といった将来への不安と迷いが強くなっているのではないか? そして社会自体も不安や苦しさが前提になっているのではないか?

そうした仮説から、今回「現代の生きづらさ」に着目し、社会をリデザインするためのワークショップ(WS)を企画。
Z世代はもちろん、その周りの人や自分自身も感じている生きづらさを整理し、その背景を考え、現状を変え得る「これなら“アリかも”」なアイデアを導き出してみようという試みです。

GGP共創プロジェクト「少子化に向き合う社会デザイン」の関連イベントとして実施しました。

ワークショップ(WS)の風景

  • 1. Z世代の視点や感性を知る
  • 2. 言葉にしづらい苦しさを認めていく:道本咲希氏
  • 3. 世界の課題に反応し、声を上げていく:黒部睦氏
  • 4. 現代の生きづらさを言語化し、小さなアイデアを出すワークショップ

WSに先立ち、まずふたりのクリエイターがインプットトークに登壇しました。
若者が抱く家族観や価値観を丁寧に見つめて映像化してきた映画監督の道本咲希氏(1997年生まれ)と、気候・ジェンダーなどのテーマをアートと結び付けながら社会に投げかける活動をすすめるアーティビストの黒部睦氏(2001年生まれ)です。

Z世代のクリエイターは今、何を見つめ、どう感じているのか?
社会に潜む違和感や迷いから目を逸らさず、表現や行動へと昇華する、そんなふたりの創作の動機や背景から、Z世代の感性や価値観を捉えようという狙いです。

インプットトークの風景。映画監督の道本咲希氏(左)、アーティビストの黒部睦氏(右)。

映画監督の道本咲希氏

常の中で揺れ動く個人の心の機微を丁寧に捉えながら、映画を撮影してきた道本氏。その原点のひとつとなっているのは、自身が高校生時代に家族との不和に悩んだ経験です。
「親と子の関係性の複雑さは、他者からは見えづらい。人に相談できず苦しかった」と述懐します。そんな「言葉にならない苦しさ」を描いたのが、短編映画『なっちゃんの家族』(2022年)です。

小学4年生の主人公なっちゃんは、一見普通の家庭に暮らす5人家族の末っ子。家族に愛されているが、実は両親や親と兄姉同士は不仲で、家庭内のやりとりは全てなっちゃんを介するという奇妙なバランスで成り立っている。そんな状況に疲れ切ったなっちゃんはある日、遠くに暮らす祖母の家へと逃げ出してしまう──。
道本氏は「なっちゃんは、命の危険に晒されていたり、暴力や経済的な虐待に合っている訳でもない。端から見たら幸せに暮らしている。けれども、なっちゃんは傷ついている。映画では、そんな苦しみが存在することと、それは自分でちゃんと傷と認めて声を発してよいのだ、というメッセージを込めた」と語ります。

短編映画『なっちゃんの家族』(2022年製作/30分)のフライヤー ©︎2022 VIPO

一方、長編映画『ほなまた明日』(2024年)は、現代に生きる写真学科の大学生4人の青春を描きました。写真家を目指す主人公ナオは、SNSなど意に介さず、時に周囲を振り回しながらも自分の撮りたい写真を求めて歩き続ける女の子。対照的に、友人の小夜は投稿した写真に“いいね”がつかないと不安になってしまうような、SNSや他者の影響を受けやすい子として描かれます。
そこには映画監督として、他者の評価に向き合わざるを得ない道本氏自身の苦悩も投映されました。

「“いいね”が沢山つくことと、作品が本質的に素晴らしいかは別問題。しかし私もつくった映画のコメントに敏感になったり、同世代の活躍と自分を比較して落ち込んだりと小夜的な面は多くある」と道本氏は自省します。
それでも、SNSの声に流されると、いずれ自分のすべてが他者に影響されていくことになる。「自分の頭で考え続ける姿勢を大切にして、映画を撮り続けていきたい」と語りました。

長編映画『ほなまた明日』(2024年製作/99分)のフライヤー

環境アクティビスト・アーティビストの黒部睦氏

続いて黒部氏は、学生時代から参加してきた社会運動と、現在の軸であるアーティビストとしての活動を紹介しました。高校生の時に出会ったSDGsの可能性に惹かれ、環境問題の啓蒙活動に参加し始めた黒部氏。
研修で訪れたスウェーデンの地で、日本との違いを目の当たりにしたと言います。
「スウェーデンには、街の中に環境に優しい選択肢が多く用意されていて、意識せずとも環境負荷の低いものを選び取れる仕組みができている。それにも関わらず、市役所前ではより踏み込んだ政策を求める市民運動が行われていまし
た。」(黒部氏)。

大学生の時には、気候変動に取り組む若者の社会運動に積極的に携わりました。しかし活動をする中で、日本では社会運動という行為自体に「怖い」「過激」といった強いイメージが刷り込まれていることを実感します。
そこで現在は、アートにフォーカスしながら社会運動を支援し、SNSやYouTube等で発信するアーティビスト[*1]としての取り組みを行なっています。

「アートや“かわいい”を切り口にすると、その奥に潜む社会課題の話まで聞いてもらいやすくなる。関心の入り口を、色々な角度から用意することを今は意識しています」と黒部氏は話します。

意欲的に活動する黒部氏にも、生きづらさを感じる瞬間があると言います。
「駅前でスピーチをしたりWSをしたりと、アクションを実行した後は達成感があります。でも、それらの活動が報道された後のネットやSNS上のコメント欄はひどいものです。全く知らない人から“そんな行動しても無意味”“もっと勉強しろ”、あげくに容姿をあげつらう内容まであったりと、気持ちが挫かれました」(黒部氏)。

コロナ禍でのシューズアクション運動(2020年9月)。国会議事堂前に、全国から集まった靴やプラカードを並べて地球温暖化対策強化を訴えた 写真提供:黒部睦

当時を振り返り、黒部氏は「ごく普通に暮らしていても、私たちは生きているだけでCO2を出してしまう、そのことへの罪悪感もありました」と話します。
さらに自己肯定感が下がっていた時に触れたSNSで、誤った扇動的な情報に飲まれ、一時的に健康を損なってしまったそう。「もう、なんて生きづらい社会なんだろうと思った」(黒部氏)。
それでも「自分自身が生きやすくするために、この社会を少しずつでも変えていこう」と思いを新たに、黒部氏は自身を取り戻し、活動を続けています。

*1 アーティビスト:
「アート」と「アクティビスト」を掛け合わせた言葉。「反戦や気候変動、人種差別などの社会問題に対して、アートを用いて働きかける活動をアーティビズムと言い、その活動家をアーティビストといいます」(黒部氏)。プラカードをアートのように仕上げたり、紛争地の特産物のイラストを描いて意識喚起したり、黒部氏は音楽大学で声楽を専攻した経歴を活かして、時に歌を通してアクションすることもあるそう。有名なアーティビストとして、イギリスのバンクシーや、フランスのJRが挙げられる

後半は会場の参加者と共にオンラインホワイトボードを使ってWSを行った

自身の感性を信じながら、決して答えのない問いに向き合っていく。そんなZ世代のふたりの生き方、迷い、姿勢を裏付けるリアルな言葉に大いに刺激を受けた参加者は、インプットトークの後、WSに挑戦しました。WSは「現代の生きづらさとは何か?」をテーマに、3つの段階で組み立てられました。

WSの進め方
ステップ1:現状理解 Z世代の視点から「生きづらさ」とその背景にある“当たり前”を見つめ直す
ステップ2:発想の転換 それをひっくり返す“問い”をつくる
ステップ3:アイデア発想 “これならアリかも”と思える活動や仕組みを考えてみる

  • ステップ1:生きづらさの現状理解 (20分)

  • ステップ1:背景にある“当たり前”(20分)

  • ステップ2:発想の転換(20分)

  • ステップ3:アイデア発想(20分)

WSは、登壇者も交えて会場とオンラインそれぞれで少人数のグループに分かれ、オンラインホワイトボードの画面上で付箋に書き出す形式で進行しました。
参加者は、Z世代の視点や感性をヒントに、自身がそれぞれの人生のフェーズで直面している、子育て、恋愛、働き方、家族間、社会などのあらゆる場面に潜む「生きづらさ」をチームごとに話し合い、WSの最後に各チームで出てきた問いやアイデアを共有しました。

各チームからは、SNSやインターネット上の真偽不明な情報をはじめ、組織に逆らえない現実、自分の欠けている部分などを煽ってくるような自己啓発本の存在といったものまで、多様な分野の大小さまざまな事象が現状の生きづらさとして挙げられました。
それらの背景には、従順であることがよしとされる世の風潮、「ありがとう」ではなく「すいません」と謝罪してしまう価値観、「社会人」等のラベリングやネーミングがもたらす他者への想像力欠如、匿名では何でも発信されすぎてしまう一方で直接は声をあげられない空気感がある、などと広範囲におよぶ課題が挙げられました。

それらをふまえた「当たり前をひっくり返す問い」と「それなら“アリかも”な小さなアイデア」が共有されました。
「上司の言うことを聞かない方が評価される、破天荒であるほど評価されるシステムをつくってみたら」「人に迷惑をかけてはいけないという窮屈さをひっくり返すために、小学校の道徳の内容から変えてみる」「制約的なカテゴライズを抜け出し新しい概念をつくるため、まったく違う名前をつける、もしくは取り払う」「当たり前に縛られているから、直観だけで生きる原初的な日をつくる」など、常識に縛られない、画期的な発想が展開されました。

WS後にオンラインホワイトボードを見ながら全体でアイデアを共有

社会の風潮や価値観、制度を変えていくことはもちろん、答えのない問いを考え続けることは決して簡単ではありません。しかしWSを終え、まずひとりひとりが身近にある違和感や生きづらさを認識し、今後小さくとも何かを変えていきたい、という思いを共有できたイベントとなりました。

(2025年9月11日ロフトワークにて、文:藤田恵弥子 特記なき写真:ロフトワーク)

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