2020.11.13 fri

~連載第1回~ 気候変動と物理的リスクーリスク対策をビジネスチャンスに

日本総合研究所 理事 足達英一郎

 地球温暖化が問題視され始めたのは、いまから30年近く前です。企業関係者に温暖化の話をすると「二酸化炭素の濃度が上昇しても、亡くなった人はいませんよね」と言われたものです。環境問題といえば、水俣病や四日市ぜんそくなどの公害が連想される時代で、「目に見える健康被害が生じている」ものだと多くの人は考えていたのです。

温暖化で干ばつや水不足が起こるといわれても、遠くの国々のことだと当時は片付けられていました。環境保全にかかわる活動は、大企業の活動を批判する運動の一形態だと眉をひそめられることすらありました。

しかし今や、地球温暖化は明らかで、その影響による気候変動で、大型台風の襲来やゲリラ豪雨が頻発し、私たちの暮らしを直撃する無視できない社会課題となっています。企業にとっては、その課題解決やリスク対策がひとつのビジネスチャンスになっているといえるでしょう。

世界平均地上気温(陸域+海上)の偏値

出典:環境省 地球温暖化の現状

国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第5次評価報告書によると、1880年から2012年までの約130年間で0.85度上昇している。2100年までの上昇を1.5度に抑えることを目標としているが、有効な対策をとらなかった場合、最大4.8度上昇すると予測している。

ここでは温暖化や気候変動と、私たちが直面している物理的リスクについて解説していきます。

温暖化は生産性低下の要因に

およそ95000人と160人。これは2018年の日本国内の熱中症による緊急搬送人員と死亡者の数です。2020年は、8月末までに、およそ58000人が緊急搬送され、107人の方が亡くなっています。

日本国内の熱中症による緊急搬送人員と死亡者数(単位:人)

出典:消防庁「夏期における熱中症による救急搬送人員の調査」

そして、202081カ月の日本国内の熱中症による緊急搬送人員のうち5,000人近くは、道路工事現場、工場、作業所等の仕事場から搬送されています。もはや熱中症による職場の生産性低下は避けられないようです。これもまた、企業にとっては大きな物理的リスクといえるでしょう。

職場における熱中症による死傷者数の推移

出典:厚生労働省 2019年職場における熱中症による死傷災害の発生状況(確定値)

熱中症による救急搬送人員 発生場所別(構成比)

出典:消防庁 熱中症による救急搬送状況(2020年8月)

気象災害による経済活動への影響

大気の平均状態を気候といいます。「気候変動」とは、平均から大きく外れた現象が頻発することです。具体的には、高温、寒波、豪雨、干ばつ、発雷、強風、高潮、高波など、さまざまな自然現象があげられます。それらは人間の生活や暮らしに悪影響を与えることも多く、「気象災害」を引き起こすのです。

気象災害とは、台風、洪水、自然発火の山火事、土砂崩れ、さらにその被害がもたらす健康への被害、家財の喪失、農作物の損害などです。こうした悪影響は、個人の生活に及ぶだけではなく、経済活動やその担い手である企業にとっても、さまざまな悪影響を及ぼすことが具体的に明らかになっています。それが、気候変動による、経済活動や企業への「物理的リスク」です。

ルーバン・カトリック大学疫学研究所(CRED)災害データベース(EM-DAT)の自然災害被害額のうち「洪水」「暴風雨」「旱魃」を気候変動と関係の深い災害として抽出し、過去の推移をみると、2017年には合計が3,000億ドル(約33兆円)を超えて過去の記録を更新していることがわかります。(この数字は、家計部門と企業部門の両方が含まれているものです)。

ルーバン・カトリック大学疫学研究所災害データベースの自然災害被害額

出典:Centre for Research on the Epidemiology of Disasters, the Emergency Events Database

企業にとって厄介なのは、こうした気候変動による災害が生じたときの深刻さが大きくなっていることです。自社は無傷で直接的な被害がなくても、サプライチェーンが寸断されることで操業停止を余儀なくされる事態も少なからず発生しており、経済的な影響は被災地域にとどまらないこともあります。

さらに、自然災害は、いつ、どの程度の悪影響が生じるかを予見できない、その不確実性にもリスクがある点は見逃せません。

過去10年の津波以外の水害被害額

出典:国土交通省 令和元年の水害被害額公表資料 2020年8月21日

国土交通省のまとめによると、2019年の水害による物的被害額が統計開始以来最大となる約2兆1,500億円に上った。

未曾有のリスク対策にこそ新機軸

一般的なリスク管理の考え方では、リスクの大きさは「災害1回あたりの影響額」に「発生する確率」を乗じたもので計算されます。その災害リスクの大きさと対策費用との大小を比較し、リスクを見極めて対策を講じるのが通例でした。しかし、現代では、影響額も発生確率も過去の経験が通用しなくなっているところに物理的リスクへの対策の難しさがあります。

それでも手探りで、物理リスクへの対策に着手し始めている企業は少なくありません。さらには、他社の対策を自社の事業機会ととらえ、取り組む事例も増えてきています。

次回からは、大雨被害と気温上昇を軸に、気候変動に対する適応対策を自社の事業機会ととらえ、取り組む事例を紹介していきます。

  • TOPに戻る