2020.11.27 fri

~連載第2回~ 気候変動と物理リスクー洪水・浸水リスクと適応ビジネス

日本総合研究所 理事 足達英一郎

企業にとって、気候変動の物理的リスクとして、脅威が高まっているのは、豪雨、河川の氾濫、高潮、高波といった現象によって生じる洪水です。

洪水被害による経済的な打撃

例えば、201110月にタイで発生した洪水による被害は、甚大な影響を及ぼしました。チャオプラヤ川流域の工場団地には、コンピューターの主要部品だったハードディスクドライブ(HDD)や、デジタルカメラの主要部品であるレンズ、自動車組み立て工場などが立ち並んでいました。そうした工業の多くが、浸水により被害を受け生産が滞ってしまい、世界中のサプライチェーンに影響が波及したのでした。

当該地域では、概ね半年に亘ってHDDの生産が減産を余儀なくされ、その結果、世界的なHDDの価格高騰が生まれ、コンピューター等HDDを内蔵している情報機器の出荷台数が軒並み減少するという事態に発展しました。

2011年のチャオプラヤ川氾濫の様子。撮影:Piti A Sahakorn/ Getty Images

日本国内では、20187月に西日本を襲った豪雨により、大手自動車メーカーの主力生産工場が被害を受け、操業を停止せざるを得ない事態にもなりました。生産停止の影響により、自動車出荷台数への影響は約3カ月におよび、企業収益にも約280億円の損失を発生させることとなったのです。

工場の操業停止以外にも、地下街の浸水被害なども相次いでいます。2019717日未明、名古屋市営地下鉄の栄駅改札付近と「森の地下街」が大雨で浸水した事例では、10以上の店舗に被害が生じました。市のサービスセンターは端末への電源供給ができずに、住民票の交付業務が一時止まるという事態も発生しました。泥をかき出す作業は午後までかかったということです。栄と名古屋駅の地下街は約167千平方メートルの規模で多くの店舗が密集します。名駅から北に2.5キロメートル離れた庄内川が決壊すると、駅周辺が水没するという危険性も指摘されています。

商業施設ばかりではありません。201910月に上陸した台風19号では、高層マンションの地下にある電源設備が浸水し、被害が拡大したことは記憶に新しいところです。

洪水による被害低減のための事業が拡大

こうした洪水・浸水リスクに対して、その低減、回避策を提供しようとするビジネスも現れています。都市型水害による建物への浸水被害を最小限に抑えるために、短時間で簡単かつスピード設置できる浸水防止設備として、止水商品「止水マスターシリーズ」を開発したのが、文化シヤッターです。各種シャッター、住宅建材、ビル用建材の製造及び販売を事業内容とする同社は、これまでは人の侵入を制御してきたシャッターに、浸水被害を抑制する機能があることにいち早く着目しました。社内組織としての止水事業部も設置し、2016年から始まった5カ年の中期経営計画では、「止水対策商品をさらに拡充し、止水関連売上No.1を勝ち取る」、「止水対策商品を基軸に、コンサルティング力を加えた事業まで進化させる」という目指す姿を盛り込んで、「20213月期に防災事業で売上高40億円」を掲げました。

防災・減災、国土強靭化のための3カ年緊急対策概要

2018年~20年度の3年間、上記のようなハード・ソフト対策を集中的に実施することが、2018年に閣議決定された

2016年8月に、国土交通省は「地下街等における浸水防止用設備整備のガイドライン」を策定、公表しており、ほかにも、土嚢や水嚢、防水扉などの製品にも注目が集まっています。水を吸ってわずか10分ほどで約20kg程度に膨張する淡水用吸水土のうや防水性・気密性・水密性を備えた二重構造の防水ドアなどが、その一例です。

地下街等における避難確保・浸水防止対策に関する支援措置(予算制度)
2016年8月時点

気候変動に対する適応対策を自社の事業機会ととらえ、取り組む事例は確実に広がっています。次回は気温上昇とレジリエンスの事例についてご紹介します。

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