2021.03.05 fri

ダイバーシティ&インクルージョン(第2回)女性活躍に向けた企業の先進的取り組み

日本総合研究所 渡辺珠子

Black Lives Matterの影響

2020年はダイバーシティ&インクルージョン推進に影響を及ぼす大きな出来事があった年でした。そのうちのひとつがBlack Lives MatterBLM)です。20205月に米国でジョージ・フロイド氏が警察官に殺害された事件をきっかけに、世界中でBLMを掲げる抗議行動が広がりました。英国を含め各地で大規模なデモが起こった他、著名人がSNSなどで抗議の声を上げていたので目にした方も多いでしょう。BLMは人種差別問題であり、ダイバーシティ&インクルージョンの問題と同義ではないものの、BLMによって企業のダイバーシティ&インクルージョンに向けられる世間の目が一層厳しくなりました。

撮影: Andrew Burton/Getty Images

その一例が米国マイクロソフト社です。米国マイクロソフト社は202010月に米国証券取引委員会に提出した書類の中で、現CEOサティア・ナデラ氏の後任として、「高い評価を獲得した女性や人種マイノリティグループ出身者の個人を積極的に探し出し、CEO候補者のグループに加える」ことを述べました。誤解のないように付け加えておくと、ナデラCEOの退任は差し迫ったものではありません。しかし、世界を代表するグローバルテック企業が、企業の代表者を検討する際にダイバーシティ&インクルージョンを考慮することを明確に示すことはこれまで稀だったので、米国内のメディアでも取り上げられ、ESG投資家を始め大きな注目を浴びました。なお、米国マイクロソフト社ではBLM直後、すでに2025年までに米国で黒人管理職とシニアリーダーの数を倍増させると宣言しています。CEO候補に関する発表は、同社のダイバーシティ&インクルージョンに対する姿勢を一層明確にしたと言えるでしょう。

女性活躍に本気で取り組んでいるかが問われる時代に

日本では人種マイノリティよりも、取締役への女性登用を中心に、女性活躍がダイバーシティ&インクルージョン議論の中心です。内閣府が20207月に発表した第5次男女共同参画基本計画では、主な先進国での管理職に占める女性の割合が30%以上であるのに対し、日本は2019年時点で14.8%と、先進国の中でも女性の意思決定過程への登用が不十分であることが指摘されています。同基本計画には、「指導的地位に占める女性の割合が30%を超えて更に上昇し、2030年代には誰もが性別を意識することなく活躍でき、指導的地位にある人々の性別に偏りがないような社会となることを目指す」と示されており、日本企業のより一層の努力が求められています。

第5次男女共同参画基本計画(2020年令和2年12月25日閣議決定)の成果目標:
雇用などにおける男女共同参画の推進と仕事と生活の調和

女性の管理職登用に関しては、常について回る「言い分」があります。「女性の取締役の割合を向上できないのは適切な人材が不足しているからだ」、「産休や育休で仕事を一時的に離れたために昇進・昇格のタイミングがとりにくい」といった内容です。しかし2022年の女性活躍推進法改正に際して、主に中小企業に対して女性活躍に関する情報公開が義務付けられる予定です。多くの日本企業が女性活躍に取り組むことが常態化する中、上記のような「言い分」は通用しなくなりつつあります。もちろん、数字上で管理職比率を増やすといった話で済むことではありません。企業規模を問わず、女性活躍の取り組みとその結果が紐づいているなど、実体を伴う女性活躍やダイバーシティ&インクルージョンが推進されていることを、社内外のステークホルダーに説明することが益々求められることが考えられます。

「なりきり体験」を提供するキリンホールディングス

産休や育休、復職制度、時短勤務など従業員が働きやすい職場づくり、メンタリングを含めたキャリア形成を支援する取り組みなどは、すでに多くの企業が取り入れています。男性の育児や介護参画を奨励する企業も少なくありません。福利厚生や人事などの制度を構築する・改革するといった取り組みが多い中、女性活躍が思うように進まない主な理由には、女性のロールモデルが少なくキャリアアップと自分の生活の両立をイメージしにくいこと、心理的な抵抗感を払拭できないといったことがあり、制度だけではカバーしきれない課題があります。そこにメスを入れた工夫をしているのが、キリンホールディングスです。

キリンホールディングスでは「なりキリンママ・パパ研修」という、実際には子どもや介護が必要な親がいない従業員が、ワーキングマザーやワーキングファザーになりきった生活を1か月体験するという研修プログラムを従業員に提供しています。共働き家庭で保育園に通う年齢の子どもがいる、実家のサポートは原則なしなどの前提条件が定められており、例えば保育園への送り迎え時間を踏まえて定時での出退勤を徹底する、子どもが発熱したという電話が突然かかってくるので、業務に支障が出ないように上司や同僚に引き継ぎ等の対処をするといった内容を体験するものです。営業部門の女性従業員のアイデアをもとに、キリンの人事総務部と協和発酵キリン(現協和キリン)の人事部において2017年に3か月間試行されました。

試行の結果、ワーキングマザーやワーキングファザーを体験することで、ライフイベントを迎えた後も働き続ける自信が持てるという効果が認められています。なかなか対応しきれないと言われていた心理面での課題を解消する取り組みです。急な出来事が起きた際に業務をどう回すかといった対処方法をチームや部署など組織単位で考える機会にもなっており、結果としてチーム対応・連携力の向上などが期待できることが確認されたため、2018年には全社展開されることが決まりました。


より柔軟な組織づくりが進む

女性活躍を含めたダイバーシティ&インクルージョン推進の新しい形として、最近「ジョブ型組織」に取り組む企業が現れています。コロナ禍でリモートワークが進んだことも一つのきっかけとなっています。様々な立場の人々が活躍する企業のあり方として注目される「ジョブ型組織」については次回に触れます。

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