イベントレポート
【アーカイブ動画】環境・社会課題への向き合い方が変える経営戦略~たねや CEOに聞く、ビジョン・事業・未来の描き方
Date: 2021.01.29 FRI
#初学者
#新規事業
2020年11月19日、SMBCグループ・ロフトワーク共催で、トークイベント『環境・社会課題への向き合い方が変える経営戦略』を開催しました。持続可能な社会に向け、環境・社会課題の解決への貢献が企業に求められる時代です。どうすれば事業として、そのような取り組みを実現できるのでしょうか。
本イベントでは、環境・社会課題に向き合い、新たな経営戦略を実践しているたねやグループのCEOである山本昌仁氏をお招きしました。
アーカイブ
Session1
動画再生時間 約32分
Session1
「企業が存在する意味を未来へつなぐ」
たねや 山本昌仁
Session2・Panel discussion
動画再生時間 約48分
Session2
「環境・社会課題解決の『意識』と『機会』を流通させる」SMFG 竹田達哉 × ロフトワーク 棚橋弘季
Panel discussion
「目指す未来像に向けて、新たな事業を生み出すために」たねや 山本昌仁 × SMFG 竹田達哉 × ロフトワーク 棚橋弘季
レポート
イベント構成
Session1 | 「企業が存在する意味を未来へつなぐ」 たねや 山本昌仁 |
Session2 はこちら |
「環境・社会課題解決の『意識』と『機会』を流通させる」 |
「目指す未来像に向けて、新たな事業を生み出すために」 たねや 山本昌仁 × SMFG 竹田達哉 × ロフトワーク 棚橋弘季 |
登壇者プロフィール
たねやグループ
CEO 山本 昌仁
1969 年、滋賀県近江八幡市生まれ。1990 年、株式会社たねや入社。1994 年、第 22 回全国菓子大博覧会にて最高賞「名誉総裁工芸文化賞」を 24 歳最年少受賞。2011 年、たねや四代目承継、株式会社たねや代表取締役社長、株式会社クラブハリエ会長。2013 年、たねやグループ CEO 就任。常に進化し続ける現代の近江商人。和・洋菓子を商い、「自然に学ぶ」を大切に事業展開を進める。株式会社三井住友フィナンシャルグループ 企画部サステナビリティ推進室長 竹田 達哉
1996年、入行。経営企画部、ITイノベーション推進部等を経て、2019年4月より株式会社三井住友フィナンシャルグループ 企画部 サステナビリティ推進室に所属、”GREEN x GLOBE Partners゛ の立ち上げに従事。2020年10月より現職。株式会社ロフトワーク 執行役員 兼 イノベーションメーカー
棚橋 弘季
2013年にロフトワーク入社。クライアント企業のビジネス変革(新規事業創出、組織変革など)に関する業務を担当。現在は、サステナビリティやDXをテーマとした企業のトランスフォーメーションに関するプロジェクトをメインに担当。2017年10月よりロフトワークの東京部門の事業責任者に。株式会社ロフトワーク マーケティング
伊藤 亜由美
学習院大学経済学部卒。学生時代は主にマーケティングや経営戦略を学び、「企業におけるイノベーションと戦略」を専攻。ロフトワーク入社後、クリエイティブディレクターとして製品ブランディングや新規事業創出プログラム、中小企業におけるデザイン経営のリサーチなど様々なプロジェクトに携わる。企業ブランディングや、自社コンテンツと世の中との接点づくりへの興味から、2020年にマーケティングに異動。花と植物が好き。
Session1 「企業が存在する意味を未来へつなぐ」 たねや 山本昌仁
自然に学ぶ
山本 みなさん、こんにちは。たねやの山本です。
まずは、約5年前にオープンした私たちが拠点としている旗艦店「ラ コリーナ近江八幡」を紹介します。琵琶湖近くにある敷地は、織田信長の安土城跡と八幡山の間にあり、約4万坪(東京ドーム3つ分)の広さです。昨年は322万人を超える方々に来て頂きました。
本社、メインショップ、菜園などがある「ラ コリーナ近江八幡」。「ラ コリーナ」とは、イタリア語で「丘」の意味。全体の監修は、イタリアのデザイナーのミケーレ・デ・ルッキ 氏が行った。
ここをつくるときに最も大事にしたのは「自然に学ぶ」ことです。これまで人間は自然を利用し、そのおかげで今日のわたしたちの生活があります。でも、昨今は温暖化や気象変動など、地球の限界がきているのではないかと感じます。そろそろ、地球をお師匠さんとし、そこから学ぶ。それがこの場所のテーマです。
草屋根のメインショップには、和菓子の「たねや」と洋菓子の「クラブハリエ」の売り場となっている。建築は東京大学名誉教授の藤森照信氏。「藤森さんの初期スケッチを見て、山本氏は「あ、これや!!」と感じたという。
訪れてくれた方に、できるだけ近江八幡の自然を感じてほしい。桜や新緑、紅葉などの四季の移ろいを感じていただける場を、お菓子を通じて提案していきたいと思っています。もともとお菓子は祭りや催事に欠かせないもので、秋には栗を使うなど、自然の恵みとともにあるものですから。
山本氏は社長就任以降、広大な敷地をどう利用してよいかヒントを求め、約3年にわたり全国津々浦々の有識者に相談した。その中で蟻の研究者に出会い、触発された。スケッチとサインはミケーレ・デ・ルッキ氏による。
ラ コリーナのシンボルは、私たちの精神性を示す蟻です。蟻は自分の知恵で自然に学び、不要なエネルギーを使わず、自給自足の生活を送り、絶滅することなく1億年も生き残ってきた生物です。その蟻から学ぶことはたくさんあります。すべての生き物に命が宿っていて、人間もその命のひとつ。そのことを忘れてはならないという思いを込めました。「お菓子屋に蟻って……あかんやん」っていわれますが……(笑)。
そうしたことを考えながら今、SDGsに取り組んでいます。SDGsの「誰一人取り残さない社会」という思想に、ピンとくるものがありました。それは、近江商人の「売り手よし、買い手よし、世間よし」という考え方に似ているからです。これまでに私たちがやってきたことや考えは、世界に通用するんだ! と自信をもちました。
知を集め、情報発信する場
ラ コリーナで、もうひとつ大事にしているのが、いろいろな人が集まり、情報の発信基地となることです。今はコロナの影響で難しいですが、それまでは大学の先生方や学生、たねやに関係する経済団体の方々など、多様な人がここを訪れてくれていました。
本社屋もこの敷地内にありますが、そこのテーマは「イマジネーション(想像力)」です。想像力を増す場として、建物やインテリアはデザインしてもらいました。
本社内部の鹿の角を用いたシャンデリアは、帯広の作家森井英敏(DEERHORNSMITH`S)作。 「なんでこうなってんの? という疑問を抱くことで、発想力が増す」と山本氏はいう。
変えてはいけない幹、彩り豊かにする変化する枝葉
たねやの創業は明治5年、私の曽祖父の代からお菓子屋として栗饅頭や最中をつくってきました。実は、栗饅頭は、初代と現在のものでは全然味が違います。明治時代は砂糖が高価で、甘味が重要でした。でも今は美容と健康重視で甘すぎると敬遠されます。私が社長になった段階で、糖分は限界まで落としました。でもお客様は「あんたんとこの栗饅頭、昔からかわらずおいしいわ」と言ってくださる。プロフェッショナルとして、「味が変わった」と言われないようにマイナーチェンジを重ね、お客様の舌の変化に沿って、お菓子をどんどんと変化させていくことが大事です。時代の流れを早く察知し、ものごとを移していかなければならないということです。
伝統とは、続けていくものですが、続けるために何をしなければならないのか、先達がやってきたことを書いた、山本家のバイブル「末廣正統苑(すえひろしょうとうえん)」をご紹介します。
山本家に代々伝わる「末廣正統苑」。
お菓子の原点は柿なので、装丁は柿色です。中に大きく「道」と書かれていて、これが一番大事にしてきたことです。商いにはいろいろな道がありますが、自分はどのような道を貫いていくかを、常に見つめなおす必要があります。
「商人道在叶処」(しょうにんどうは かなうところにあり)というのは、商いの道は人の道であり、手塩をかけ、お客様に喜んでいただけたかを日々問う心が大事という意味です。ただ日々の売り上げを重視する経営者もいるかもしれませんが、お客様や社会の人に本当に喜んで楽しんでもらえているかが重要。それが最終的には売り上げにつながるということです。それが私たちの大きな、変えてはならない考え方です。
先祖代々いわれてきたことですが、大きな木があって、その幹はぜったい変えてはならないと。年輪を重ねた大きな幹から出てくる枝葉は、代々の手法です。花の色は、青だったり、黄色だったり、赤だったり、いろんな色の花を時代に合わせて咲かせることが大事だということを「末廣正統苑」では言っています。今はコロナ禍で厳しい状況ですが、経済を止めないために今、何をしていかなければならないのか、バイブルを読み、お菓子屋としてあるべき姿を、改めて考えなおそうと思っています。
人のネットワークをいかし、新たなチャレンジへ
伝統を大事にする一方で、新しい試みもしています。たとえば、私たちはオリーブオイルをイタリアから輸入していて、大福にオリーブオイルをかけたりしています。トスカーナ地方のウンブリア州に「たねやの木」があり、10年来(2011年以来)毎年足を運んできました。完全オーガニックでオリーブとブドウを生産している農園で、信頼と絆を培ってきた人が、たねやのためのオリーブオイルをつくってくれています。
会社の社長というものは、いちばんの広報マンです。世界中のいろいろな人に会い、おいしいものを食べ、それをお菓子作りに役立てていく。情報を早く察知して行動に移していく、そういうことを意識してやってきました。
相手のことを考えて行動する思いやりの心で接していけば、人のつながりを広げていけます。相手のことを自分のこととして考えれば、どんな商売の人とでも、腹を割って話すことができる。そういうネットワークを国内外に張り巡らすことができたと私自身は思っています。
今後は、デジタルを活用しながら、商売を導いていくことが大事になると思います。ウィズコロナの現在に一生懸命種まきをし、ポストコロナの時代がきたときに花を咲かせるために、今こそが大事だと考えています。それについて、この後のパネルディスカッションでお話ししたいと思います。