2021.07.16 fri

TCFDとは何か?(後編) TCFD対応に求められる情報開示の例

日本総合研究所 渡辺珠子

前回TCFDの概要と求められる情報開示の項目およびその内容について解説しました。今回は、実際の企業レポートを見ながら、どのような情報開示を行っているかを見ていきます。

TCFDに賛同する企業・金融機関のうち、非金融企業で初めてTCFDに特化したレポートを発行したのが住宅メーカーの積水ハウスです。同社は20187月にTCFDに賛同を表明していますが、その10年前の2008年に、すべての住宅のライフサイクル全体において2050年にCO2排出量ゼロを目指すという「2050年ビジョン」を掲げており、いち早く脱炭素経営に取り組んできた企業です。

201912月に公表した「TCFD Report 2019」では、TCFD提言が推奨する情報開示項目のうち「戦略」を中心に記載しています。冒頭の要約部分で、気候変動に関するリスクと機会それぞれついて、財務への潜在的影響を分かりやすく一覧にまとめている点にも注目です。

積水ハウス 「TCFD Report 2019」の主な記載内容

  1. 要約
     ・気候変動に関する機会とリスクの認識
     ・気候関連のリスク・機会と財務への潜在的な影響

  2. 気候変動対応戦略
     ・ガバナンス
     ・積水ハウスグループの考え
     ・既存戦略の確認結果 他

  3. 1.5℃シナリオにおける機会およびリスク
     ・財務的影響の大きい主なリスク要因
     ・戸建て、賃貸他、事業別の検証
     ・炭素排出の上昇リスク 他

  4. 4℃シナリオにおけるリスクおよび機会
     ・自然災害、異常気象のリスク認識
     ・住宅事業全般の検証 他

  5. 今後の課題
     ・上記1~3の内容を踏まえた取り組みの方向性 他

(出所:積水ハウス 20191226日プレスリリース)

「気候変動対応戦略」では、積水ハウスグループ全体の気候変動に関するガバナンス体制や、脱炭素経営の実現に向けた方針と具体的な目標を述べています。また脱炭素に向けたこれまでの取り組みによって、足下では致命的な影響を受けていないとの判断を示しています。

積水ハウスでは「1.5℃シナリオ」と「4℃シナリオ」それぞれにおける機会とリスクを特定することで、脱炭素経営戦略として検討すべき内容やモニタリングが必要な内容、潜在的な財務面の影響を明らかにしています。「1.5℃」という数字は、世界の平均気温の上昇を1.5℃以内に抑えるという目標から来ており、この数字を達成するためには、2050年までに温室効果ガスの排出をネットゼロにする必要があります。積水ハウスの場合、炭素税の導入や環境規制の強化の可能性といった事業環境の変化が予測されるものの、2008年から脱炭素経営を実施しているため、大きなリスクは発生しない見込みであるとしています。逆に脱炭素製品へと転換を進めてきたことから事業機会を得られる可能性が示されています。

一方「4℃」という数字は、気候変動に関する政府間パネル(Intergovernmental Panel on Climate Change, IPCC)の第5次評価報告書に示された気温上昇の予測シナリオのうち、最も気温上昇が大きくなるシナリオから来ています。この場合は大型台風や洪水の頻発、海面上昇といった異常気象や、それによる生態系の変化といった物理的なリスクを免れません。従って4℃シナリオは、これらの物理的リスクの発生を前提とした対策の検討や事業機会への対応内容を含みます。積水ハウスの場合は工場での被害の可能性を考慮して対策をすでに講じていることや、自然災害に強い住宅として選ばれる事業機会などを示しています。

なおリスク管理や指標に沿ったモニタリング・評価結果など、TCFD提言が推奨するその他の情報開示項目のうち、年次でアップデートが必要な内容については、同社のサステナビリティレポートにも詳細な情報が記載されています。

TCFD提言に基づく情報開示の方法は企業によって異なります。2020年に公表された「TCFDガイダンス2.0」では様々な事例も提示されているので、TCFD対応を考えている企業や金融機関は目を通しておくことをお勧めします。

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