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人と人のつながりをつくる“地域SNS” ~誰もが心地よい地域コミュニティのあり方とは?〜“サステナビリティ×コミュニティ”シリーズ ―vol.4

Date: 2022.02.21 MON

  • #ソーシャル

  • #地域共創

  • #イノベーション

サステナビリティと「コミュニティ」の関係を考えるGGPのイベントシリーズの第4回目。ゲストはPIAZZA株式会社代表取締役社長の矢野晃平氏。地域のコミュニティをオンライン上に展開する地域SNSPIAZZA」を運営されています。

ご近所付き合いなど地域コミュニティ内の人間関係が希薄になっている都市型のライフスタイルにおいて、コミュニティはどのような意味を持つのでしょうか。これからの時代のコミュニティのあり方を考えるため「人と人のつながりをつくる地域SNS” ~誰もが心地よい地域コミュニティのあり方とは?〜」を1014日、開催しました。

過去のイベントはこちら

  • 第1回:コミュニティを問いなおす
  • 第2回:つながりを見せるブロックチェーンが拓く可能性とは?
  • 第3回:まちづくりと地域経済から考えるサステナビリティ
  • イベントレポート
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左から三井住友フィナンシャルグループ 木村、PIAZZA 矢野氏、ロフトワーク 棚橋

  • Session 1 「まちづくりのプラットフォーム事業」、PIAZZA
  • Session 2 Panel Discussion 

(以下、矢野氏談)

PIAZZA(ピアッザ)」はイタリア語で「広場」という意味で、「街の広場をつくっていきたい」という思いではじめた地域に特化したSNSです。街ごとにタイムラインが存在し、ユーザーはそこに自由に投稿をすることができます。各街ごとにFacebookのタイムラインがあるようなイメージです。ユーザーは、地域の住民、商店の方、自治体の方が中心。現在東京の中央区(勝どき・日本橋)、江東区全域をはじめ、横浜市の港南区や仙台市、青森市など全国56エリアで展開していますが、2022年には200エリアにしたいと頑張っているところです。

”地域SNS”を運営する会社と紹介しましたが、僕たちの事業は、単にSNSアプリを提供するだけでなく、「まちづくりのプラットフォーム事業」だと捉えています。

僕は今、まちづくりが変革期にあると考えています。コロナ禍でより顕著になった、リモートワークの増加や、EC・デリバリーサービスの普及を背景に「どこに住んでも働けるし、どこに住んでもサービスが届く」環境が整いました。「どこに住むか」という選択肢がより広がっていると思うんです。

これまでは、街にある商業施設や都心へのアクセスなど、街のハード面のスペックが住む街を選択する上で重要だったのですが、今後はそれ以上にコミュニティが育っているかやどんなサービスが利用できるかといったソフトの部分が重要視されていきます。そのソフトの部分の向上に取り組んでいるのが僕たちPIAZZAです。

コロナ禍が引き起こした変化は他にもあります。地域コミュニティの交流の場であった、お祭りやイベントは非接触型のオンライン開催が推奨されるようになりました。またリモートワークが普及しました。それにより、それまで関心のなかった、自分の住む地域のお店に興味が沸いてきた、という人も少なくないでしょう。それまでインバウンド需要によって支えられてきた地域経済は、人の移動の制限によって足下商圏が大切になってきました。

また、自治体に関しても、少子高齢化によりこれから人口減で税収が減っていきます。行政サービスは中央集権的な形からいかに市民自治を強化する方向にシフトするかが大切になってきます。

こうした社会変化がありながら、今デジタル上にはローカルな情報を届けるためのプラットフォームが存在しないのです。地域のイベントの主催者や商店、自治体が地域の方々に情報を届ける上で、今はポスティングやビラ配りといったアナログな方法しかありません。それも何千枚配って、情報を届けられるかどうかわからない。ですからPIAZZAのような地域のコミュニケーションのためのデジタルプラットフォームが重要になっていきます。地域の人たちが必要とする地域の情報がちゃんと届くプラットフォームということです。

実際、PIAZZAのアプリの中ではとてもローカルなコミュニケーションが行われています。例えば、「ある場所にサンダルが落ちていました」と投稿されると「それ、私の子供のサンダルです」と持ち主が返信をするというコミュニケーションが起こる。

他にも暮らしで困っていること、例えば「子どもの体操着を買いに行かなくてはいけないけれども、どこがいいですか?」「アレルギーがあるのですが、どの病院がいいですか?」というような地域が限定された情報交換がなされています。

地域SNSには地域限定だからこその集合知があるんです。僕が好きなエピソードはタイムラインに投稿された「近所どんぐりが拾える公園はありますか?」という質問。こういう情報ってGoogleには載っていない情報なんですよね。Googleにはたくさんの情報が載っているけれど、その地域の方が必要とする情報を見つけるのはとても難しい。だからこそ、地域に限定した情報を拾い上げることができる地域SNSが必要なのだと思っています。

ここまで地域コミュニティにおいてデジタルプラットフォームが重要になるという話をしてきましたが、僕たちは、「リアルな場でのコミュニケーション」も非常に大事にしています。例えば、一部のエリアでは地域の方々がお仕事や子供たちの遊び場として利用できるようなコミュニティ施設を運営しています。それから、その地域に住む方をコミュニティデザイナーとして採用して、僕たちが運営するコミュニティ施設でイベントを開催していたり。

地域の人々がSNS上だけでなくリアルの場で交流できるような仕掛けによって、オンラインのつながりとリアルなつながりの両軸でコミュニティの活性化に取り組んでいます。

また、まちづくりの中心がハードからソフトになるための根本的な課題は、ソフトの評価が行われていないことだと思います。ソフトの部分がどれだけ良いのかということが街にとって本当に大切な要素なのに、それが評価できていない。評価できないということはその場所に投資が行われないし、市場ができないんですよね。これを僕は解決したいと思っています。ですので「コミュニティバリュー」という独自の指標をつくり、それぞれのエリアで、どれくらいコミュニティが生まれ、つながりが生まれているのかを、企業の時価総額のように表現しています。これを実は自治体が街の活性化のKPIとして設定していたりします。

さらに今後は街のありとあらゆるリソースを可視化して開放していきたいと思っています。具体的にはPIAZZAAPI(外部から接続可能とする機能のこと)を公開し、街のさまざまなサービスと連携していく予定です。例えば、「今街でこの車が空いている」「この家事代行サービスが入っている」といった情報をオープンにして、街の価値がどんどん高まっていけばいいなと思っています。

まちづくりとは、街に対してアクションを起こす人を増やすこと
自治体との連携でウィン・ウィンな関係に

棚橋 矢野さんのお話のなかですごく響いたのは「地域はリアル」とおっしゃったことです。デジタルな地域SNSを運営されている矢野さんからその言葉が出てきたのが素敵ですね。

矢野 実は、創業から12年、事業がとても停滞した時期がありました。今考えるとデジタル上での体験だけを重視したプロダクトづくりを続けていたからですね。デジタルとリアルを絡めた体験設計ができてなかった。だからこそ今コミュニティの場づくりをはじめリアルのコミュニケーションに対して投資をしています。

棚橋 市民自治を本当にやろうとすると、デジタルだけやリアルだけでは難しいですよね。リアルが前提にありながら、そこにアプリが組み合わさると、情報交換・コミュニケーションのハブができる。さらに街の活発さがコミュニティバリューとして数値化されていると、より主体的に地域を盛り上げようとする人、地域の人々と交流しようとする人を増やすことにつながっていきそうですね。

矢野 僕は15歳の頃に『街並みの美学』(岩波現代文庫)という本を読んで、「ピアッザ=広場」という考えに出会い、それをつくりたいと思っていました。人と人のつながりは都市化が進むにつれて希薄化してきましたが、人々にとってなくてはならないと考えたからです。広場は人と人のつながりを育む場だったと思うのですが、現代社会においては経済価値を生み出しにくいからつくられない。そういう時代だからこそデジタル上で広場をつくろうと考えました。

デジタルだと、いろいろな方々が入りやすいんです。あるユーザーとお話させていただいている時「PIAZZAってどんなアプリですか?」と聞いたら、その女性が「お化粧しなくても参加できるご近所付き合いです」と。まさにこれだなと。コミュニティのメンバー同士のご近所付き合いのハードルを下げることが、デジタルの役割ではないかと思っています。

木村 リアルな場で誰かと会ったり、自分が何かを受け取ったりできるような仕掛けが、今求められていると思います。今までの市場経済では、コミュニティや広場など一見すると何もお金の価値を生まないものが全く評価されなかった。結果的に人間的生活が奪われているということなのかなと。まさにそれを取り戻し、ビジネスとして持続可能な仕組みを目指しているのですね。

棚橋 運営しているコミュニティ施設は、たとえばどんな施設なんでしょうか?

矢野 基本的にオープンなコミュニティ施設で、民間の児童館や公民館のようなイメージですね。

日本橋は三井不動産さんのようなディベロッパーさんと一緒にやらせていただいていまして、日中は仕事をする方々、週末には近所の方々が来て、皆さんの憩いの場として使われています。

僕たちは、民主的なまちづくりとは、街に対して自発的にアクションを起こす人を増やすことだと思っています。そういう人を増やすためには、自発的なアクションを起こせる「場所」を提供すること、それからその場に「集客ができる」ことが大切だと思っています。そこで集客のツールとしてPIAZZAを活用いただき、コミュニティ施設で「場」を提供する。そうした観点からもコミュニティ施設の運営を大事にしています。webサイトをもとに施設の情報を具体的に補足しています。もし理解に齟齬がある部分がありましたらお知らせください。

棚橋 PIAZZAのエリアを増やしていくなかで、自治体やデベロッパーと連携していますよね。その際、自治体はどんなニーズを持っているんですか?

矢野 自治体のニーズは、町内会機能の補完と、子育て世代のコミュニケーション支援や情報配信ですね。自治体には、市民自治の強化が大命題としてあるんです。その受け皿となるツールとしてPIAZZAを活用したいというのが一義的な目的です。
もう一つ「コミュニティバリューを見たい」という目的もありますね。コミュニティバリューは自治体が定量評価される一つの指標なので、比較や対策がしやすく、議会などでも効果としてちゃんと見せられます。

棚橋 逆に、PIAZZAの側からは自治体にはどんな役割を担ってもらっているんでしょうか?

矢野 PIAZZAのエリア内での普及への協力ですね。すごくアナログですけど、PIAZZAのチラシが全ての幼稚園や保育園、役所や図書館に置かれています。実は、僕たちがこのアプリを普及しようと思った時に困ったのは、普及チャネルがなかったことなんです。創業当初に僕が深夜に自転車でチラシを配布したりしていても大して効果がないんですよ(苦笑)。それが自治体と連携したら、一気に普及したんです。僕と同じことを地域の商店がやろうとしたら、大変すぎてできるわけがない。僕たちは地域の人たちの情報をちゃんと地域の人たちに届けるためにこの事業をやっているんです。

どの自治体もTwitterLINEでの情報発信はしていますが、1アカウントのみが多い。それに対して江東区の地域SNSでは3040ある児童館ごとにアカウントを持っていて、それぞれが「こういうイベントがあります」とローカルな情報をまめに出しています。そこがこのアプリの強みかなとは思っています。

木村 インターネットが普及して、情報やリソースにグローバルにアクセスできるようになっているという勘違いが私たちにはあります。アクセスできる領域が広がるほど、いつでも使える状態になっていると思いがちだけど、実はそこから抜け落ちるローカルな視点や情報があるんですね。だからこそ今、ローカルな人たちの主体的な行動によって情報交換できる場が重要なのかなと思います。

矢野 おっしゃる通りですね。地域のつながりをつくることや、地域の社会課題を地域のみんなで助け合い、コミュニティ内で解決していけるようになることが、今後重要だと思います。

矢野 今僕は一人暮らしなんですけど、実は地域のつながりってほとんど持ってないんです。アプリ上でのやりとりはあるけれども。そうすると、例えば僕がぎっくり腰とかをやったときに困るわけですよ。「近くのこの整骨院がいいですよ」とアプリで情報は教えてもらえても、接骨院に行くのにも困ってしまう。情報は交換できても「つながり」はつくれないのです。シングルペアレントや単身者の課題が、ニュースなどでも取り沙汰されますが、これからは家族を越えて、住んでいる部屋を越えて、困った時に相談できる「つながり」を持っておかなければいけないんだろうなと思っています。

木村 単身者じゃなくても困ることいっぱいありますよね。フラっと外に出て気軽に話せる関係性が近くにあるだけでも違いますよね。

矢野 そう思います。僕にとって一番の地域のつながりはコンビニの店員さんかもしれないです。そう考えると、地域のつながりって、ほんとはそんなに濃くなくてもいいのかもしれない。薄く、ゆるくてもいいけれど、たくさん持つことが大切なのかな、と思います。

木村 確かに、今はまだ昭和型のコミュニティ観が根強いので、地縁コミュニティの濃さによって「なんだかご近所付き合いって面倒だな」と思ってしまいがちだけれど、もっとゆるくていいのかもしれないですね。

矢野 「コミュニティ」って言葉も実はちょっと重いですよね。もっとライトでもいいと思う。例えば、僕は毎朝行くジムでよく会うおじいさんがいるんですが、その人が一日来ないだけでその人のことがすごく心配になる。毎日話しているわけでも、その人のことを知っているわけでもないのに。でも、そのくらいゆるくて、身近で、かしこまらなくていいつながりが、現代には必要なのかなと思います。その一つが僕たちのようなデジタルであってもいいのかなと思います。

20211014日 ウェビナーにて)

PIAZZA株式会社 代表取締役社長 矢野晃平
幼少期からの16年間の海外生活(米国、英国、カナダ、オランダ)を経て、McGill大学土木工学・都市計画を卒業。卒業後は、日興シティ証券(現:SMBC日興)の投資銀行本部にてテレコム・メディア業界を担当。その後ネクソンの経営企画部にてゲーム会社への投資を担当したのち、20155PIAZZA株式会社を設立。
地域の広場アプリPIAZZAhttps://www.lp.piazza-life.com/

動画再生時間:約80分

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