解説記事
気候変動が自然資本にもたらす影響と「適応」のあり方――IPCC第6次評価報告書WG2の内容とは(前編)
Date: 2022.04.20 WED
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気候変動による影響や適応についての報告書を発表
2022年2月28日、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第2作業部会(WG2/影響・適応・脆弱性)から第6次評価報告書が発表されました。IPCCの評価報告書といえば、2021年8月に第1作業部会(WG1/自然科学的根拠)の第6次評価報告書が発表されています。「人間の活動の影響によって大気、海洋、陸地が温暖化していることは疑う余地がない」と述べ、人間の活動が温暖化の要因であると言い切ったことは記憶に新しいところです。WG1は気候変動に関して科学的な根拠を示しつつ知見をまとめる役割を担っています。一方、WG2は、気候変動が生態系や生物多様性にもたらす影響や、健康や災害発生など人々の生活や経済状況に与える損失などを評価するだけでなく、気候変動への適応策をまとめる役割を担っています。
第6次評価報告書サイクルのIPCC組織図 (環境省_気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第6次評価報告書(AR6)サイクル (https://www.env.go.jp/earth/ipcc/6th/index.html)を元にGGP作成)
気候変動に関する議論ではよく「適応(adaptation)」という単語が使われますが、自然災害や干ばつといった気候変動によって引き起こされる被害を軽減する、もしくは回避することで、自然や人々の生活のあり方を調整することを意味します。地球の平均気温の上昇を含め、気候変動の影響を避けられない以上、適応策を講じることは重要です。
政策者向けの要約に書かれていること
WG1の第6次評価報告書と同様(関連記事)、今回も冒頭の政策者向けの要約(Summary for Policymakers、SPM)に注目してみましょう。政策者向けとありますが、報告書全体の要点をまとめており、報告書全体を通じて主張したいことが把握できます。SPMは「A:はじめに」、「B:観測された影響および予測されるリスク」、「C:適応策を可能にする条件」、「D:気候にレジリエントな開発」の4部で構成されています。
まず注目したいのは「B:観測された影響および予測されるリスク」です。その名の通り、気候変動によって自然や人々の生活にどんな影響やリスクがあるかについて述べられています。冒頭では、「人為起源の気候変動は、自然と人々の生活に対して広範囲にわたる悪影響とそれに関連した損失と損害を、自然に起こりうる気候変動の範囲を超えて引き起こしている」と述べられています。つまり、人間の生活や経済活動によって引き起こされた気候変動の影響は、私たちが想像する以上に影響を及ぼす範囲が広く、かつ深刻だということです。また異常気象や自然災害などによって、自然や人間の生活が回復できないほどの損失や損害を被ることも十分ありうると指摘しています。この損失や損害は地域によってその深刻度が異なりますが、その「深刻度」は、地域の経済活動の発展、持続可能性を軽視した海洋や土地の利用、不平等や社会的排除の度合いや地域社会のガバナンスなどによって引き起こされていることも指摘されています。それぞれの地域にどのような影響が現れやすいのかについては下図のように評価が示されています。
IPCC AR6/WG2報告書のSPMの概要 (http://www.env.go.jp/press/files/jp/117548.pdf) を元にGGP作成
また「B:観測された影響および予測されるリスク」の中で、「確信度が非常に高い」とされる内容は主に下記の通りです。
- 地球温暖化は近い将来5℃に達し、複数の気候変動由来の災害の増加を避けられず、生態系および人間に対して複数のリスクをもたらす。
- 地球温暖化を5℃付近に抑えるための短期的な対策は、気候変動が生態系や人間に対しもたらすと予測されている損失や損害を大幅に減らすものの、全てをなくすことはできない。
- 気候変動とそれに伴うリスクの規模と変化速度は、短期的な緩和策と適応策によって変化する。
その他、地域によって気候変動の影響やリスクは複雑化しつつあり、対策が一筋縄ではいかなくなっていること、それらは相互に作用するので、ある地域で発生したリスクは連鎖的に他の地域にも生じることなども指摘されています。つまり、上の図に示されていたような影響は刻々と変化するものであり、遠くの地域のリスクが明日には自分達の地域のリスクになることは十分考えられるということです。
次回は、WG2のSPMの後半「C:適応策を可能にする条件」、「D:気候にレジリエントな開発」について解説します。