解説記事
気候変動が自然資本にもたらす影響と「適応」のあり方 ——IPCC第6次評価報告書WG2の内容とは(後編)
Date: 2022.05.17 TUE
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#気候変動
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前編では、IPCC第2作業部会(WG2)の政策者向けの要約(Summary for Policymakers、SPM)の4部構成のうち、「A:はじめに」、「B:観測された影響および予測されるリスク」について解説しました。後編では、「C:適応策を可能にする条件」、「D:気候にレジリエントな開発」を紹介します。
適応策はどう評価されているか?
気候変動によって引き起こされる被害を軽減する、もしくは回避するために、世界各地でさまざまな適応策が実施されています。防災や減災などの取り組みはその代表と言えるでしょう。
「C:適応策を可能にする条件」の冒頭では、政府や企業、市民社会など様々な主体による適応策は、すでに多くの効果を生み出していると述べていますが、各地域や各主体のガバナンスや管理能力などによって、実行可能な適応策にばらつきが生じていることが指摘されています。同じ地域でも、気候変動によってもたらされる損失や損害は人によって異なる場合があります。同じ対策を取っても地域によって被る損失や損害が異なる場合もあります。評価報告書では、こういった差が生じにくいように、多様な主体間で連携しながら適応策を講じることの必要性を指摘しています。
その他、適応策の中には限界に達している場合が見られることを指摘し、これらは財政、政策、ガバナンスなどの制約を見直すことで対処できると述べています。なお適応策が失敗するケースも増えているが、それらの多くは柔軟性がなく高コストで、不平等を増幅させてしまうものであることなども指摘されています。
気候にレジリエントな開発とは何か?
報告書の最後の項目は「D:気候にレジリエントな開発」です。気候変動に強く、損失や損害を受けにくく、また損失や損害を受けたとしても迅速に回復できるような社会を作っていくことを意味しています。この項目の最後では「気候変動がすでに人間と自然のシステムを破壊していることは疑う余地はない」とし、これまでの経済発展は気候にレジリエントなものではなかったと指摘しています。この項目の冒頭でいち早く気候にそのような社会を作る取り組みを進めることが必要だと述べていることを踏まえると、緊急度がかなり高いことが窺えます。
出典: IPCC第6次評価報告書WG2 日本語はGGPにより追記
しかしここでは具体的にどういった開発をすべきか、ということを細かく書いているわけではありません。Cでも各地域や各主体のガバナンスや管理能力などによって、実行可能な適応策にばらつきが生じていることを指摘していますが、ここでも各地域や主体による意思決定やガバナンスが推進され、それぞれ整合性を保っていることが必要だと指摘しています。当たり前のことを書いているに過ぎないように見えますが、逆に言えば「できている地域、主体がほとんどない」、「やりたくても経済的、社会的な要因によってできない地域や主体が存在する」ということでもあります。
またここでは気候にレジリエントな開発においては生物多様性や生態系の保護が必須であると述べています。昨今TNFD(自然関連財務開示タスクフォース)が注目されていますが、ネイチャーポジティブへの取り組みはますます重要になってくるでしょう。
気候変動の緩和に関するIPCCのWG3の第6次評価書も4月に公表されています。そして9月には統合報告書も発表予定です。