イベントレポート
知識と経験を持ち寄って、食と農業のこれからを考える。 ——サステナブルな食と農業をデザインするワークショップ 開催レポート
Date: 2022.08.04 THU
#初学者
#地域共創
#新規事業
私たちが毎日関わる「食」、そして食べ物を育てる「農業」。その持続可能性を考えることはわたしたちのこれからの生活を考える上でも重要なテーマのひとつです。
GGPでは、2021年より「サステナブルな食と農業シリーズ」と題し、トークイベントを開催してきました。さらに2022年には、本テーマをより深掘りし、食と農業の持続可能性向上に取り組む企業間の連携を生み出していくことを目指し、「サステナブルな食と農業をデザインするワークショップ」を実施しました。
>vol.1イベント
>vol.2イベント
このワークショップでは、食や農業の持続可能性に対して思いを持った企業・団体・自治体をテーマオーナー(お題の提供者)として招き、テーマオーナーが感じている課題に対して参加者とともに解決の方向性を検討しました。
一企業、一個人だけで考えるのでなく、さまざまな業種や立場の目線で意見を交わすことで、食と農業にまつわる社会課題の解決に向けたヒントを見つけることができました。
今回は、2022年1月26日・3月3日に開催したワークショップの様子を、それぞれご紹介します。
1月26日開催 vol.1 資源循環型農業のアイデアを考える
ワークショップ1回目では、他産業から排出される二酸化炭素を農業に活用する株式会社誠和と佐賀市、そして養殖と水耕栽培をかけ合わせた循環型農法に取り組む株式会社プラントフォームにテーマオーナーになっていただきました。
炭素や廃棄物など、これまで次の用途がないとされてきた余剰物を農業の資源に活用し、循環型の農業を実践するためのアイデアについて参加者とディスカッションを行いました。
農業×他産業でつくる資源循環 活炭素を進める
2021年に設立50周年を迎えた株式会社誠和は、世界の農業大国と呼ばれるオランダから学び、高収量栽培を得意とする企業です。その圧倒的な栽培力をさまざまな作物の生産に応用しながら、高収量栽培のための機器や技術を商品として展開しています。
栽培能力を上げるために行っているのが、他の産業から排出される二酸化炭素を活用する「活炭素」の取り組みです。地球温暖化に影響を及ぼしている温室効果ガスの一つである二酸化炭素ですが、植物の光合成を促進し、その生育を助ける働きもあります。
現在、誠和は他の産業で排出される二酸化炭素を、農業に活用するため、佐賀県佐賀市と連携し、二酸化炭素を減らすだけでなく活用することで、農業の活性化と脱炭素社会の実現に取り組んでいます。
出所:株式会社誠和 代表取締役 大出浩睦氏 登壇資料より
誠和・大出氏に続いてお話しいただいたのは、活炭素事業の連携パートナーである佐賀市・バイオマス産業推進課の前田氏です。
佐賀市が、二酸化炭素の活用を始めたきっかけは、ごみ処理施設(焼却炉)の統廃合を行う際に住民から生じた不安の声でした。そこで、ごみ処理施設のマイナスのイメージを払拭しようと、焼却熱を温水プールなどの熱源として活用することに加え、焼却後に残る灰をセメントの材料として、焼却時に排出される二酸化炭素を農業の分野で活用できる仕組みをつくりました。
現在は農業に取り組むベンチャー企業やJA全農の栽培施設がごみ処理施設周辺に設けられ、二酸化炭素を活用した野菜づくりが行われています。たとえば、JA全農が育てるキュウリは、全国平均と比べ約4倍の収穫をすることができています。また、ごみ処理施設の二酸化炭素や焼却熱を使う産業がごみ処理施設周辺に集積することで産業誘致にも繋がっており、こうした経済価値が創出されている現状から、ごみ処理施設に対する住民の不安解消にもつながっています。
ごみの焼却によって排出される二酸化炭素の活用が、エネルギーの循環や、街への新たな経済価値の創出という好循環を生み出しています。
出所:佐賀市 バイオマス産業推進課 前田修二氏 登壇資料より
淡水魚の養殖と水耕栽培を掛け合わせた循環型農法「アクアポニックス」
そしてもうひとつの農業分野の循環型の取り組みの実践者としてお話いただいたのは、魚の養殖と水耕栽培、それぞれの生産段階の余剰物を活用した循環型農業に取り組んでいる株式会社プラントフォームの佐藤氏です。プラントフォームでは養殖と水耕栽培をかけ合わせた造語「アクアポニックス」という農法を実践しています。
出所:株式会社プラントフォーム 佐藤大仁氏 登壇資料より
この農法は、魚を養殖する際に発生するアンモニアをろ過装置のバクテリアによって毒性が低い物質に硝化し、野菜を栽培する際の栄養として活用するというもので、化学農薬や化学肥料を使用せずに、レタスやスナップエンドウ、イチゴなどの水耕栽培をすることが可能となっています。
そして、植物が栄養成分を活用することで水中の窒素が低くなり、その水を養殖水槽へ循環させることで、水の再利用化が可能になり、資源の有効活用をしつつ水産物を養殖することができます。
有機栽培は、化学農薬を使用しないことから、環境負荷が低く、食環境にも配慮できる農法として注目が集まっています。しかし、維持・管理コストや収穫効率の観点から、日本の有機農業面積割合は0.5%程度とまだ広まっていないのが現状です。こうした現状に対して、プラントフォームは、アクアポニックスと、IoTの技術を活用して、有機栽培による大量生産が可能な仕組みの構築を進めています。
テーマオーナーのみなさまによるプレゼンテーションは、こちらからご覧いただけます。
動画再生時間:約41分
タイムライン
|
ワークショップ
プレゼンテーションを受けて、後半ではテーマオーナーのみなさんが活動する中で感じている課題をグループごとに共有いただき参加者全員でディスカッションを行いました。
ワークショップのテーマ
- 「農業×他産業でつくる資源循環 ?活炭素で脱炭素を進める佐賀市の事例をヒントに?」(誠和・佐賀市)
- 「いま使っていないものを使って食料自給率アップを考えよう」(プラントフォーム)
誠和と佐賀市から提示されたのは「農業×他産業でつくる資源循環 ?活炭素で脱炭素を進める佐賀市の事例をヒントに?」というテーマでした。農業について学んでいる学生や、金融業など異なる職種で環境ビジネスに取り組んでいる方々とともに、身の回りにある資源を見直すところから話が進み、下記のようなアイデアが出てきました。
ワークショップで検討したアイデア。本来捨ててしまうもの(黄色)を、もしこんな風に活用できたら?という発想の転換(青色)からアイデア(赤色)を検討していきました。
食品廃棄物を資源として活用するアイデア
・野菜や果物の皮など、廃棄予定だった食品を使った料理をジャンル化し、名前をつける
・廃棄物をリサイクルすることに対してポイントを付加する
植物を資源として活用するアイデア
・落ち葉を繊維化し、ホーム・アパレル産業で活用
・バイオマスチップが欲しい人、バイオマスチップがある場所を可視化することで、うまく販売できる仕組みをつくる
熱・排気をエネルギー資源として活用するアイデア
・車や電化製品から出る熱を、農業などに回す仕組みづくり
他にもさまざまな資源の可能性やアイデアが飛び交ったワークショップの最後には、テーマオーナーである佐賀市の前田氏より下記のコメントがありました。
「廃棄物を恥ずかしいものと考え、出してしまったゴミというものを開示することに抵抗を持っている人が多いのが現状です。けれど、今日これだけ活用案が出てきたように、もしかしたら誰かが欲しいものであるかもしれない。佐賀市がプラットフォームとなって、ニーズとニーズのマッチングを可視化することが大切なんだとわかりました。」
3月3日開催 vol.2 食や農業への関心、市民参加をどう促していく?
ワークショップ2回目では、畜産にアニマルリスペクトの視点を取り入れている川村通商株式会社、農業が身近にあることを体感できる取り組みを続ける神戸市、20年先の酒造りのために農業にも携わる株式会社神戸酒心館にテーマオーナーになっていただきました。
食料自給率や農業従事者の減少など、食や農業に関するさまざまな課題を目にすることが多くなった今、日々の生活で口にしている食材はどこで、誰が、どのように育てたものなのか、一人ひとりがより身近に自分のこととして関心を寄せてもらうためにはどうするべきかを参加者とともにディスカッションしました。
革製品づくりで畜産・生き物の大切さを学ぶ
出所:川村通商株式会社 川村 洋一郎氏 登壇資料より
創業100年を超える川村通商株式会社は、現在、食肉と革の販売を中心に事業を行っており、なかでもランドセルの素材となる革のシェアは、8割を占めているといいます。
生物多様性の観点からアニマルウェルフェア※1などの考え方が広がるなか、事業に対して環境団体から抗議を受けることもあり、川村氏自身、家畜を飼うことは悪いことなのかと悩んだ時期があるそうです。試行錯誤を経て、現在は革の卸や食肉の販売を継続しつつ、生きものへの感謝とリスペクトの視点を加えた事業のアップデートを試みています。
例えば革製品については、誰でも革そのものに触れたり、自分で革を使ったものづくりができる施設「KAWAMURA LEATHER」を開設し、革製品を生み出すつくり手の視点に触れることで、革製品に愛着を持ち長く使い続ける人を増やせたらと考えています。
単なる最終製品の消費者としてではなく、自分たちの身の回りにある資源がどこから来て、どのような人の手を介し、自分が食べるもの・使うものになっているのかを可視化するなど、まずは知る機会を増やすことで、過剰な殺生をせず人と家畜が共生し続けることができる世界を目指しています。
※1 アニマルウェルフェア:「動物の生活とその死に関わる環境と関連する動物の身体的・心的状態」のこと。家畜を快適な環境で飼養し、家畜のストレスや疾病を減らすことで、生産性の向上や安全な畜産物の生産につながることから、アニマルウェルフェアの考え方を踏まえた家畜の飼養管理の普及が農林水産省により推奨されています。
(https://www.maff.go.jp/j/chikusan/sinko/animal_welfare.html)
農業の楽しさを知るコミュニティづくり
続いては、神戸市 経済観光局農水産課でアーバンファーミング※2の推進に取り組む山田氏にお話をいただきました。
都会のイメージを持たれることが多い神戸市ですが、面積の3分の1は森林や山林、そして3分の1は農村や里山で農業や漁業が営まれています。こうした豊かな環境に支えられた食の恩恵があることを神戸市民も知らない人が多いという状況を変えるため、神戸市では2015年から「食都神戸」というプロジェクトを実施しています。
例えば、市内では農業に従事している方々が出店するファーマーズマーケットを実施しており、農産物を購入できることに加え、生産者と知り合うことで愛着を持ってもらえるような場所となっています。
他にも学生が農業漁業に関わることのできるプログラム、飲食店で地元の食材を使っていることを積極的にPRしてもらうなど、さまざまな取り組みを行っており、2021年からは都市部の空き地や屋上などを活用したアーバンファーミングが各地で行われ、市内で農業を行う方が指導者となり、地域の仲間づくり・コミュニティづくりにつながっています。
出所:神戸市 経済観光局農水産課 山田隆大氏 登壇資料より
消費を促すことを中心として始まった取り組みでしたが、現在は農業の楽しさや大変さを知り、食に関心を寄せ続けるきっかけをつくるきっかけがさまざまな形で生まれています。
※2 アーバンファーミング(都市型農業):都市型農業とは大都市の市街地で農業をし、食物を生産・流通させることをいいます。都市のビルの屋上や都市の遊休地を活用した農業が、パリやニューヨーク、ロンドンなど世界の大都市でも実践されています。
20年先も酒造りをするために
株式会社神戸酒心館は、宝暦元年(1751年)より270年続く日本酒の造り酒屋です。神戸酒心館の酒は、六甲山から流れる宮水、兵庫産の酒米山田錦、そして六甲おろしの風と瀬戸内の温暖な気によって育まれる土地力から生み出されるもので、原料が米と水とシンプルであるからこそ良い日本酒を造るためには「良い米」と「良い水」が重要と考え、地域の農家とともに米づくりに取り組んでいます。
出所:株式会社神戸酒心館 安福武之助氏 登壇資料より
台風の被害や水不足などの気候変動は、米づくり、そして酒造りに欠かすことのできない水の調達などにも大きな影響を与えます。神戸酒心館では20年先の酒造りを考え、生産工程のデジタル化などによって、環境価値と経済価値の両立を推進しています。生産数量を7年間で約3倍に増加させながらも、エネルギー使用量やCO2排出量を削減し、節水により水の使用量も抑制しています。そのほかには、酒粕の再利用や酒瓶の再資源化など、限りある地域資源を最大限に活用した酒造りに取り組んでいます。
また、原料となる山田錦の栽培においても、近隣の牧場のバイオガスプラントから生まれる副産物(有機消化液)の活用や除草剤を使わない栽培技術の導入など、小規模農家への支援・関係づくりにも力を入れています。次世代の農業の担い手を増やすこと、地域の自然の恵みを大切に無理なく活用し続けることが、20年先やその先の未来も持続可能な酒造りを実践する上で重要なのです。
テーマオーナーのみなさまによるプレゼンテーションは、こちらからご覧いただけます。
動画再生時間:約45分
タイムライン
|
ワークショップ
後半のワークショップでは、関心を持ったテーマごとにグループに分かれ、テーマオーナーの持つ課題についてディスカッションを行いました。
ワークショップのテーマ
- 「クリエイティブな力で食にまつわる素材の廃棄の問題に挑むには?」(川村通商)
- 「都市での農業との関わり方を考える 〜農漁業に参加する方法を考えよう」(神戸市)
- 「農業に次世代の担い手を増やすには?」(神戸酒心館)
神戸市の山田氏から提示された「都市での農業との関わり方を考える 〜農漁業に参加する方法を考えよう」というテーマに集まったのは、すでに神戸市内でアーバンファーミングを広げる事業に取り組もうとしている方、不動産の側面からまちづくりに取り組んでいる方、農業のことはわからないけれど関心を持っている方などさまざまで、都市で農業に関わる人が少ない要因をあげ、それぞれに解決につながりそうなアイデアを検討していきました。
ワークショップで検討したアイデア。農業に関心を持ちにくい理由(黄色)から発想を転換し、新しい農業サービス・農業支援のアイデア(赤色)を検討していきました。
「農業を始めるきっかけ」をつくるためのアイデア
・中高生が農業体験できるサービスを立ち上げる
・農地を紹介するWebサイトをつくる
・農業スキルを認定&ポイントを付与するサービス
自身のライフスタイルのすきま時間で農業と関わりをもつためのアイデア
・電車のなかや駅に畑をつくって、毎朝通勤とともに育てられるようにする
・24時間会員制ジムのようないつでも農業ができるレンタル機能付き農地
・使っていないお庭を農地として貸し出す農地シェアサービス
農業にチャレンジする人の背中を押す支援策のアイデア
・畑でテレワークを認める企業に奨励金
・農休(農業をするための有給休暇)
・従業員が農業に従事することでSDGsに貢献していることを数値化
テーマオーナーとしてお話くださった神戸市の山田氏は、ワークショップを経てこのようにお話くださいました。
「アーバンファーミングというテーマにしぼって話題提供したつもりでしたが、いろいろ広がって、実現したいものばかりです。若い人や他業種の人が混ざるからこそこういう会話ができると思うので、今度は畑で集まって、こうした話ができるとてもいいなと思いました。」
ーーー
食と農業シリーズでは、土壌づくりや資源循環、農業への市民参加など、食と農業の持続性にまつわる課題をさまざまな切り口で取り上げ、考えてきました。
読者の皆様の中で、こうしたテーマに関心のある企業の皆様、多様な経験や知識を持つGGPパートナーとともに、現在課題に感じていることを話し合ってみませんか。
お気軽に事務局(ggpartners_info@ea.smbc.co.jp)までお問い合わせください。