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未来X(mirai cross) GREEN×GLOBE Partners賞記念連載:第2回 ミミズ、未踏の老朽配管に挑む——ソラリス×三井住友海上火災保険

Date: 2022.10.19 WED

  • #イノベーション

  • #新規事業

左から、三井住友海上火災保険の伊藤慎太郎氏、平岩幸治氏、ソラリスの梅田清氏、水野浩太氏。特記なき写真:稲継泰介

曲がりくねった管の中を走行し、社会貢献をするミミズ型ロボット。今回は、老朽化した建築物の設備配管の探索に挑みます。なぜ配管なのか—。

現在、国内のマンションストック(既存物件)の総数は2021年末で約686万戸。その中で築30年以上経過したものが約250万戸で、全体の36%です。20年後には約588万戸と現在の約2.4倍に膨れ上がることが予測されています[*1、2]。

これまで、鉄筋コンクリート造の住宅や事務所の耐用年数は一般的に約50年とされ[*3]、スクラップアンドビルドを繰り返してきました。しかし現在は、サステナビリティの観点から100年を超える建物の長寿命化が推奨されています[*4]。そのためには、耐用年数が一般的に約20年とされる設備配管がひとつの鍵となります[*5]。

もしも、ソフトロボットが配管内のほころびを見つけ、修繕まで自動でできるようになったなら……。夢のようなオープンイノベーションに挑む中心人物は、ミミズ型ロボットの開発と販売を行うソラリスCEOの梅田清氏と同社営業部の水野浩太氏、保険の観点で老朽化施設の防災減災を目指す三井住友海上火災保険(以下、三井住友海上)ビジネスイノベーション部の平岩幸治氏、伊藤慎太郎氏ら。その可能性と展望をお伺いしました。

三井住友海上の平岩幸治氏

——三井住友海上とソラリスのコラボレーションはどのように始まったのでしょうか。

平岩 近年、火災保険契約をしているマンション管理組合に保険金をお支払いする件数が増えています。中でも多いのが漏水事故です。三井住友海上としては損害率や収益率が年々と厳しい状況になっています。築25年を超えると事故が顕著に増え、このまま放っておくと、損害保険会社として安定的な保険の引受が厳しくなる危機感を持っています。また、サステナビリティの観点から、既存の建物と上手く付き合っていくことも必要です。
そこで、事故を未然に防ぐためのひとつのソリューションとして、ソラリスのミミズ型ロボットを使った配管の点検やメンテナンスの可能性を探っています。
今の火災保険は、建物の状態で保険料が変動する仕組みにはなっていませんので、まずは点検で状態をしっかりとモニタリングし、将来的にリスクを保険料に反映させることを考えています。
また状態を把握することで、建物のコンディションに応じた適切な設備更新を計画することができ、顧客にとってはメンテナンスコストの削減につながります。保険会社として、綿密な点検や適切なアドバイスをサービスとして提供する新規事業とすることも可能になります。
中期経営計画では従来の事業領域を拡大し「保険に加えて補償の前後のソリューションを提供する」ということを謳っています。ミミズ型ロボットの取り組みはその一つとなります。

三井住友海上の伊藤慎太郎氏

伊藤 私は工場やプラントでの各種ソリューションを担当しています。2022年の時点で、日本にある石油化学系プラントのおよそ半分が50年以上経ったものだと言われていて、ビル・マンションと同様に老朽化の課題を抱えています。
プラントで漏洩事故が起こると大きな事故になるので、設備管理はしっかりしていますが、それでも漏洩火災爆発が増加傾向です。それは老朽化だけでなく、熟練工が減り事故を防ぐ知見が伝承されていないことも一因になっています。ミミズ型ロボットによるパトロールは、事故防止と同時に、設備のスマート化やDXにつながるのではないかと思います。
また、石油化学系のプラントでは、可燃性のガスや蒸気、粉塵などによる火災や爆発を防止することがとくに求められますので、空気圧人工筋肉で駆動するミミズ型ロボットは発火の危険性が低く、非常に適した能力を備えていると言えます。

ソラリスの梅田清氏

梅田 配管のスマート化をもっと進めていく必要性を感じます。配管の状態に関する情報を常に収集して可視化できると、それに応じた対応ができます。究極のスマート化を考えると、人が手を加えなくても自分で不具合を認識して、自動的に修繕してくれるといいわけですよね。建物のインフラをスマート化し、安心な暮らしを提供することにミミズ型ロボットが寄与できればよいと思っています。現在計画中の都市や建築を見ると、まだ配管などの設備インフラは従来どおりのつくられ方をしています。そういうところにもDXを取り入れて、変えていきたいです。

ソラリスの水野浩太氏

水野 私は今、三井住友海上からソラリスに出向し、事業開発をしています。保険会社では、営業職として様々な業種の企業や個人事業の方々とお付き合いをしていました。そのネットワークを生かして、いろいろな方のお困りごとを伺い、解決のためにソラリスの製品がどのように役立つかを考えています。

梅田 世の中にない新しいサービスを生み出すときに、顧客が抱えているお困りごとを直に伺う必要があります。そういう意味で、水野さんの存在はミミズ型ロボットの可能性を拡大してくれています。

伊藤 水野さんがソラリスで積んだ経験を、当社に戻ってきたときの事業開発にぜひ生かして欲しいですね。

——2022年8月、築40年以上の空きビルで、排水管の中にミミズ型ロボットを走行させる実証実験(PoC)を行いました。その目的と成果を教えてください。

平岩 当社が所有する取り壊し前のオフィスビルがあり、そこがミミズ型ロボットの実戦デビューの場となりました。
まずは、現時点のソフトロボティクスでどのようなことができるのか、ミミズ型ロボットの走行性能の確認と、検査ソリューションにしていくためにどのような機能が必要になるか、まずは足元をしっかり見て、今後の開発に生かしていくための基礎をつくるためのPoCでした。

左:実際のビルでミミズ型ロボットを走行させる実証実験の風景。ビルの屋上の配管からミミズ型ロボットを挿入。  右:ミミズ型ロボットの先端についたカメラから配信される画像をモニターで確認するプロジェクトメンバー。左下のモニターがミミズ型ロボットからの画像 写真:GGP 

梅田 地上4階、地下1階の鉄筋コンクリートのビルで、排水立て管と、1階の床下にある横引き管の両方で行いました。結果は、想定外の要素を多く含んだコースだったため、思ったように走行させることは出来ませんでした。
立て管は、屋上からミミズ型ロボットを入れ、下まで走行する予定でしたが、最初のカーブが想定よりも急峻で立ち往生してしまい、結果的にミミズ型ロボットが一部故障してしまいました。横引き管の方は、奥の方が事前調査では把握できなかった細い径になっていて、それ以上侵入することができませんでした。
ただし、我々にとっては非常に多くの発見がありました。開発段階では、〈こういう条件で動かすとこう壊れる〉という故障モードを整理することが大事です。それにたくさん出会えた価値のあるPoCでした。

左:モニターを見ながらミミズ型ロボットを応援するメンバー  右:配管から取り出したミミズ型ロボット 写真:GGP

——具体的にどのような故障モードがあったのでしょうか。

梅田 立ち往生した状態で動かし続けたことが、故障モードの新たな発見となりました。
先頭が進めなくなったとき、逆に最後尾が引っ張られたときに何が起こるのかなど、ロボット評価のバリエーションが増えました。PoCではエンジニアも悔しい思いをしたので、ラボで新しいテストコースをつくって実験を繰り返しています。

水野 エンジニアが開発しているプロセスを見ていると、世界でたったひとつのOne and Onlyの製品を扱っているのを誇りに思い、いい経験をさせてもらっていると感じます。

梅田 平岩さんたちがターゲットとしているマンションの配管は、管の素材や階数、特殊継手などさまざまな条件があるので、それを制覇するための技術的難易度は最強クラスです。

伊藤 配管に詳しい人たちと今後どう連携をとっていくかも重要ですね。

梅田 チームに配管施工のプロを加えて、継続して技術を高めていきたいです。

——保険会社としては、具体的にどのようにソリューションにつなげていくのでしょうか。

平岩 人間に例えると、見た目は健康でも血管ボロボロのような状態をミミズ型ロボットは発見できます。だから「人間も毎年健康診断や人間ドックを受診しなさい」というように、継続的に配管の状態をモニタリングするサービスを提供し、患部が発見されたら修繕に対する適切なアドバイスを我々がさせていただく。そういう世界を、ソフトロボットと一緒に描けたら面白いと思います。
現状はカメラしかついていないので、ミミズ型ロボットが撮影した画像が配管状態の判断に使えるか否かをまず検討する必要があります。もしそれだけで解決できないようであれば、オープンイノベーションとして広く意見を集めつつ、他にどのような知見が必要なのかも併せて検証していきます。今回のPoCでは、配管の高圧洗浄業者の方から現場での経験に基づく様々なアドバイスをいただくことができました。専門家の知見を紐付けてソリューションとして仕上げていきたいと思います。

——健康状態によって保険料が変動するというイメージですね。
ミミズ型ロボットを普及させていくために、どのようなロードマップを描いているのでしょうか。

梅田 目指したい未来は、あらゆる配管の近くにロボットの基地があり、常にミミズ型ロボットが出動の準備をしているという世界です。例えば地震が起きたら勝手に出動して、点検終えたら戻ってくるとか(笑)。そういう未来をつくっていくために今、確実に課題をクリアしていくことが重要で、今が一番たいへんかつ面白い時期です。

伊藤 将来的に掃除機能をもつように進化すれば、ミミズ型ロボットが定期的に走行することで詰まりをなくし、同時に漏水の発見もできます。配管掃除機能をマンションのクオリティとして掲げる戦略も考えられます。

梅田 配管の自動メンテナンスを考慮した建築設計や保険の制度設計が必要になってくるということですね。

平岩 老朽化した建物の維持管理と平行して、時代の変化に合わせてこれからつくるもののあり方を考えなければならない。同じものをつくり続けると、次世代も同じことで悩まなくてはなりませんから。

伊藤 ミミズ型ロボットがあるメリットが、保険料やメンテナンスコストを含めてこれまでと比較できれば、導入していく動機付けになります。
ただし保険は、過去のデータで保険料が決まるので、ロボットを入れたから事故が減ったというエビデンスがあってはじめて保険料を下げることができます。まずは、取り組んでいただいて、その効果の積み重ねによって安心安全なまちづくりに、保険もソフトロボットも寄与していけると思います。

平岩 マンションに備え付けられたミミズ型ロボットが自動で配管を検査する時代がくるかもしれませんね……(笑)。

梅田 技術は進化しますから、そういう未来を描いて行動することが重要だと思います。 30年後、どれくらい我々のミミズ型ロボットが普及しているか楽しみです。

2022年9月15日、三井住友海上駿河台新館にて 文:有岡三恵/Studio SETO

*1 国土交通省:ストックマンション数 ストック数686m万戸
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001488548.pdf

*2 国土交通省:20年後にはストックマンションの約3分の2が築40年以上となる
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001488549.pdf

*3 国土交通省:長寿命化にむけた取組
https://www.mlit.go.jp/common/001065736.pdf

*4 文部科学省:長寿命化による廃棄物やCO2削減: 解体した場合よりも、長寿命化で廃棄物算出量(体積)56%、Co2発生量(体積)86%削減と試算
https://www.mext.go.jp/component/b_menu/shingi/toushin/__icsFiles/afieldfile/2014/01/08/1343018_03_2.pdf

*5 国土交通省:設備の耐用年数は1520年と推計されている
https://www.mlit.go.jp/common/001011879.pdf 

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