インタビュー
コレクティブ(第4回)──若杉浩一氏に聞く日本全国スギダラケ倶楽部の実践
Date: 2022.10.25 TUE
#ソーシャル
#地域共創
#自然資本
聞き手:日本総合研究所 井上岳一
若杉浩一氏(右)と井上岳一氏(左)。武蔵野美術大学造形構想学部クリエイティブイノベーション学科にて。特記なき写真:稲継泰介
地域社会と人のつながりをデザインするスギダラ
枝打ち作業する若杉氏
BC工房を通じて出会ったデザイナー仲間数名で産地に出向くと、現地の人には「何をしに来たの?」と訝しがられました。でもいろいろ話をしているうちに「君たち面白いこと言うね。かんぱ〜い」という感じ(笑)。そうこうしているうちに、まちづくりに奮闘している人などその地域の個性的な人に出会うことになりました。肝心なのは、デザインの専門用語は絶対に使わずに、できるだけみんなで盛り上がるようにすること。
「せっかく来たから、下草刈りとか枝打ち[*3]とか手伝います!」と言って、一緒に作業したのもよい経験でした。枝打ちすると真っ暗だったところに、ぱっと光が入ってくる。こういうのが喜びだと実感しました。
飲み会の勢いで突撃し、何回か繰り返していると、だんだんと何かを一緒にやろうという話が出ます。工場を見てまわるうちに家具をつくろうとか、技術がないときは簡単なものをつくって縁日で売ろうとか。じゃあそのために縁日をやろうとなり、僕たちデザイナーは屋台や家具をデザインしたり……。小物を売るだけでは収益が少ないから、WEBサイトでも販売しようとか、だんだんと活動が拡大していきます。
デザインしたものが地元で評価されると、今度はイベントでワークショップをやったりして盛り上がります。楽しいところには人が集まってくるので、デザイナー以外の人も増えてくる。現在、スギダラの会員は、行政や学校の先生、工務店などデザイナー以外の人が多いです。
ある意味、愛の押し売り(笑)。「あなたのまちはこうなるべき」とか勝手にビジョンを押しつけて鬱陶しがられるけれど、だんだんと「まんざらでもない」と思ってもらえるようになります。
——地方に通っているうちにメンバーが増えるということですね。「鬱陶しい」から「まんざらでもない」となるまでに、どれくらいの時間がかかるのですか。
だいたい10年くらいはかかります。その地域でスギダラを面白がってくれる人がいて、その人のために頑張って継続します。鹿沼市などは、丸2年呑んでいるだけでした。基本的に向こうが何かをやろうと言うまでは提案はしません。
鹿沼市では2016年、467脚、合計700mを超えるスギのベンチを並べギネス記録に挑戦。主催は鹿沼商工会議所で、約1000人が集った。木部も金物も鹿沼で製作し、町の人が自分の手で組立てた。写真提供:日本全国スギダラケ倶楽部
貨幣ではない「楽しさ」を流通させる価値
日向市駅。写真提供:日本全国スギダラケ倶楽部
スギダラの代表のような位置づけで取材を申し込まれることがありますが、上下関係がない集団だと説明しています。一応支部はありますが、基本的には頭も尻尾もなく、プロジェクト毎に参加者がいろいろな役割を担ってみんなでやっている。場合によっては僕もただ荷物を運んでいるだけだったりしますから。誰かがピッと笛を吹いたら、集まれる人が集まってきて、木を提供してくれる人がいたり、デザインをする人がいたり、組み立てる人がいたり……そんな感じでみんなが手助けし合っています。
パーパス・ドリブンな組織は主体性の共鳴が鍵となる
[*1]日本全国スギダラケ倶楽部 http://www.sugidara.jp/index.html
[*2]我が国の森林面積は国土の3分の2に当たる約2,500万haであり、世界有数の森林国。森林蓄積は人工林を中心に毎年 約6千万㎥増加し、現在は約54億㎥。面積ベースで人工林の半分が50年生を越えて成熟し、利用期を迎えている。この豊富な資源を有効活用すると同時に、 循環利用に向けて計画的に再造成することが必要。
林野庁:https://www.rinya.maff.go.jp/j/kikaku/genjo_kadai/attach/pdf/index-28.pdf
[*3]下刈:植林した苗木等の成長を妨げる雑草や灌 したがり 木を刈り払う作業 通常 植林後の数年間、 毎年、夏期に行う。
枝打ち:節のない木材を生産すること等を目的に、立木の枝を切り落とす作業。
https://www.rinya.maff.go.jp/j/kokuyu_rinya/jissi/b_n/jyokyo_2004/pdf/16_7.pdf
[*4]日本全国スギダラケ倶楽部 http://www.sugidara.jp/index.html