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自治体の創発目指す「GGP地域交流会」開催——スマートシティの構想と実装

Date: 2023.02.14 TUE

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GGPは発足以来、企業のみならず地方自治体による環境社会課題の解決を支援しています。これまで兵庫県の神戸市西脇市などと共に、ワークショップを通じてそれぞれの課題解決の方策を探ってきました。そうした中、ひとつの自治体の枠を越え、他の自治体や地域との意見交換や連携を望む声を数多く頂くようになりました。
そこで各自治体で施策立案や実践を行う方々が集うことができる「GGP地域交流会」を企画し、20221028日、第1回目を実施しました。テーマは、地域社会の「スマートシティの構想と実装」。どうすれば市民や企業と一緒に、サステナブルでウェルビーイングなまちづくりを推進できるかを探ります。元・大津市市長で弁護士の越直美氏、福井市でウェルビーイングなまちづくりを実践する高野翔氏にそれぞれの取り組みをご紹介頂き、その後、参加者がワークショップで交流を深めました。

2008年以降、人口減少時代に突入した日本で自治体を運営するとはどういうことか?」。
2012年〜20年の8年間大津市市長を務めた越直美氏は冒頭、そう問いかけます。
歳入が減ると同時に、高齢化で社会保障費が増える“三重苦”の中で、越氏は人口を増やすことに挑みます。女性が「仕事か、子育てか」といった二者択一を迫られるのではなく、自由に選択できる社会をつくりたいという思いから、大津市では計3,000人を受け入れる保育園等54園をつくり、みごと待機児童ゼロを達成しました。その施策が功を奏し、働きやすい環境を求めた若い世代の移住が増え、人口減少に歯止めをかけることにも成功しました。
越氏によると、人口を増やす以外にも「やらねばならぬこと」があり、そのひとつが公共施設や補助金のカットなど行財政改革を進めること。そしてもうひとつが、民間主体のまちづくり、それがすなわちスマートシティ[*1]だと位置づけます。

越氏は「スマートシティとは、テクノロジーで市民生活を便利にすること」と、市民にも理解しやすい言葉で説明します。スマートシティにはふたつの型があると分析。

「スマートシティには、ブラウンフィールド型とグリーンフィールド型のふたつのタイプがあります。ブラウンフィールド型は、既存のまちで市民の合意をとりながら進めて行くものです。どうやって合意を得ていくのかが課題です。グリーンフィールドは、まったく新しい場所で行うまちづくり」(越氏)

さらに、行政の取り組みとしても、これまでのプロジェクト型やまちづくり型とは違う枠組が必要で、そのハイブリッド型だと指摘します。

では、プロジェクト型とはどういうものなのでしょうか。

「PFIに代表されるように、入札をかけ民間事業者と協働するものです。例えば、大津市でも競輪場を民間事業者が解体し、公園と商業施設をつくりました。公共施設を手放して、民間で活用していくこともこれからの自治体の役割です。市の施設や情報を開放していく点はスマートシティも同じ。でも、大きく違うのは、実験的な要素があるため、できるかどうかが分からないことです。例えば大津市でも、いじめ深刻化のAI予測に取り組みましたが、開始時点では、そのようなAI分析ができるかどうかが分かりません。これまでと同じような募集要項がつくれないところがプロジェクト型と違うところです」(越氏)

また、中心市街地活性化などに代表されるまちづくり型とはどう違うのでしょうか。
「町家をリノベーションしたり、まちなかで若い人の活動の場をつくるなど継続的な取り組みがまちづくり型です。継続して取り組むのはスマートシティも同様ですが、相違点は市民だけではなくIT企業やスタートアップとの連携が必要になること」(越氏)

つまり、自治体の施設や情報を開放しながら、継続的に市民や企業と多主体で進めて行くことがスマートシティの実践につながるということです。

大津市は越氏の在任中から京阪バスと協働で自動運転バスの実証実験を継続中です。

大津市でのバスの自動運転 撮影:越直美

「実証実験から実用化するためには、失敗の共有が必要です。例えば自動運転で事故があったとき、それでプロジェクトを止めてしまったら実験から抜け出せません。原因や人の運転と比べて何割事故が減らせるかなど検証する必要がある」と越氏。「スタートアップは失敗し、その要因を修正することで成長します。一方、自治体は税金を無駄にすることは許されない無謬性が求められてきた」と、自治体とスタートアップが協働する困難さに言及。それでも改革を推進するために「失敗を前提とした検証システムをきちんと設けておくこと。その情報を市民に公開し、実験を継続していくべき」と、明快なヴィジョンを示しました。

スマートシティ化によるさらなるメリットは、ITを駆使して行政の事務を効率化すること、すなわち「行政DXで市民生活を便利にすること」だと越氏は言います。

大津市では、学校でのいじめの報告書をAIで解析し、深刻化する場合のパターンを分析することに成功しました。1万件もある報告書の情報を適切に処理し、教育現場でどのように生かせるのか「当初はできるか分からなかったけれど、アジャイル対応で少しずつ予算をかけたのがポイントでした」(越氏)

AI活用によるいじめの深刻化事案の予測技術検証と活用のイメージ 出典:大津市教育委員会「AIを用いたいじめ事案の予測分析について」(2019年)

大津市では他にも公用車に搭載したスマートフォンで道路の傷みを自動的に撮影し、補修箇所を見分けるなど行政DXを推進中です。これは千葉市をはじめとする自治体で構成されるMy City Reportコンソーシアムでの取り組みです。複数の自治体が参加することで、コスト削減や知見の共有につながっています。これは、自治体連携によるDXの効果が顕著な例と言えます。

公用車にスマートフォンを搭載し、道路状況を探索するシステム 図提供:My City Reportコンソーシアム

最後に越氏が強調したのは“ダイバーシティ”です。「大津市ではまちづくりの部署を市街地の町家に移転し、職員も市民も一緒に働けるコワーキングスペースを設けました。そうすると、役所への要望ではなく、一緒にやろうという関係に変わった。スマートシティは、要望形式では始まりません」と市民参加の重要性を語ります。また、異動が多い役所の体制もイノベーションラボという組織で克服。

市街地に設けたコワーキングスペース 写真提供:大津市

「全庁の情報集約を行い、異動があっても知見を継続できる組織。スマートシティは自治体だけではできないので、民間企業と協働しやすいワンストップの窓口が必要です」(越氏)。
自治体の組織を開くことで多様なネットワークを構築することが、地域のアップデートにつながるということです。

「幸福の観点から情報を見える化することが極めて重要な時代になっている」。

そう語るのは、昨年発足したばかりのウェルビーイング学会理事で福井県立大学准教授の高野翔氏。GNH(国民総幸福量)を国是とし、ウェルビーイング指標を公共政策に活かすブータンに3年間住み、国づくりや地域政策に関わってきました。その経験を生かし、地元の福井市で、ウェルビーイングを実感できるまちづくりに取り組んでいます。高野氏が掲げるキーワードは「居場所」と「舞台」。その理論と実践をお話いただきました。

ウェルビーイングとは、国連が1946年、WHO憲章で健康を定義する際に「肉体的、精神的及び社会的に完全に良好な状態(ウェルビーイング)」としたことに端を発します。「健康を拡張したこの概念は、中長期的な幸福感を表すものです。物質的な豊かさよりも、一人ひとりが実感する心の豊かさに焦点を当てたもので、社会的なつながりも含めて、これからのまちづくりにとって重要な概念」と高野氏は説明します。
高野氏は「幸せとは何か? というアリストテレス以降の哲学的な問いが、近年の社会科学の発達でその要因を特定し測定・数値化できるようになった。そして、測定するだけでは幸福度は向上しないので、実際に幸福を実感できる場づくりもできるようになった」と、まちの居住性が幸福度と強い相関関係を持つことを理論的に語ります。

高野氏がその確証を得たのがブータンでの体験です。「ブータンはGNHを開発指針に据え、物質や金銭的な豊かさに偏重せず、伝統的な文化や環境に配慮して国民一人ひとりの精神的な豊かさを重視しています。そのために国や行政組織がウェルビーイングの指標をつくったことが大きく影響している」と解説。

ブータンオリジナルの、GNH測定するための9領域33指標 図提供:高野翔

ブータンでの指標の活用法を見ていきましょう。まず、GNH測定するための9つの領域があります。「精神的な幸せ」「環境の多様性」「文化の多様性」「地域ミュニティ活力」などの項目がバランスよく調和している状態がウェルビーイングを実感できるという仮説に基づいて設定されたものです。この指標を携えブータンで国民にヒアリングをした高野氏は「指標があるから幸福度を測定でき、数値化、さらには見える化につながる」と説明します。
数値化・見える化したGNHは、政策に生かされています。ブータンには幸せの省庁(Gross National Happiness Commission)があり、その数値をもとにPDCAサイクルを行っています。また、9つの観点ですべての政策をスクリーニングするツールを開発したり、プロジェクトのインパクト評価を行うなど、独自の挑戦が行われています。

「ブータンの施策は特殊解ではなくメインストリームになっていくと思います。1930年代以降、量的拡大が幸せに寄与するという、GDPを主眼においた国際的な価値基準が大きく転換している。将来世代に正の遺産を引き継いでいくために、SDGs以降ウェルビーイングが新しい国際目標になっていくのではないでしょうか」(高野氏)。

日本でも2021年の「骨太の方針」[*2]や「成長戦略実行計画案」[*3]でウェルビーイングの概念を政策に取り入れる方向性が示されています。また、デジタルの力で地方の社会課題を解決するデジタル田園都市国家構想では、ウェルビーイング指標で地域の魅力を数値化も推進中です[*4]。

地域のウェルビーイングを高めるための具体的なアクションについて、「まちに“居場所”と“舞台”をつくること」と高野氏。居場所とは、個人の尊厳が守られほっとできるところ。舞台とは、フランスの哲学者アランの「幸せになりたい人は舞台に上がらなくてはならない」という名言を引用したもので、自身の可能性をひきだせるところです。「このふたつを整えていくことがウェルビーイングなまちのための第一手ではないかと考えています」(高野氏)。

居場所・舞台とウェルビーイングの相関関係 図提供:高野翔

高野氏はそうした理論を地元の福井市で実践中です。
そのひとつが「ふくみち」です。福井市による社会実験のひとつで、通過動線だった道路に居場所や舞台を設えて、賑わいや憩いの空間をつくる試みです。

  • 福井市で行われている道路を使った社会実験「ふくみち」。歩道や公開空地にベンチやイベントスペースを設けている。写真提供:高野翔



2022年には、市民大学「ふくまち大学」を開校させました。「校訓の“ひらく。つながる。できる。”は、人々が学びを続けるために重要な“自立性” “関係性” “有能感”の三要素を表現したものです。「市民が自分の主体性を拓き、挑戦し、できたという実感を得るための学びの場づくりをしています」(高野氏)

  • ふくまち大学では、市内の公園など公共空間を使って、映画の上映やゼミの開催など学びの場を提供している 図提供:高野翔



「マクロ的な視点だけではなく、地域にほっとできるカフェがあるなど、ミクロ的な視点も必要です。そうした場がひとつひとつ整っていくとまちのウェルビーイングにつながると思います」(高野氏)。

越氏と高野氏によるプレゼンテーションの後、約2時間をかけて参加者による交流ワークショップを開催。スマートシティ化のための課題やこれからの取り組み方などを議論したのち、KJ法を用いて議論を深めました。

GGPでは、自治体間や企業との連携を深める地域交流会を今後も実施していきます。

*1スマートシティとは内閣府によると「ICT等の新技術を活用しつつ、マネジメント(計画、整備、管理・運営等)の高度化により、都市や地域の抱える諸課題の解決を行い、また新たな価値を創出し続ける、持続可能な都市や地域であり、Society 5.0の先行的な実現の場」と定義されている。
*2 経済財政運営と改革の基本方針2021
*3 成長戦略実行計画案
*4 関連記事:ウェルビーイングのためのデータと指標

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