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人的資本経営にパーパスをどういかす? 企業と働く人の関係を考える

Date: 2023.09.27 WED

  • #初学者

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「企業の持続可能な価値向上に向け、(中略)人材戦略を変革させる必要がある」

これは、経済産業省が2020年9月に発表した「人材版伊藤レポート」[*1]の一節です。ESG投資への気運が高まり、企業の無形資産が重視される中、人的資本経営[*2]への関心が高まっています。また、内閣官房が「人的資本可視化指針」を2022年8月に公表し、上場企業などを対象に2023年3月期決算から人的資本の情報開示が義務化されました。
こうした流れをうけて、GGPはロフトワークと共同で「人的資本経営と持続可能性」をテーマとしたワークショップ(WS)を2回連続で行いました。

2023224日に開催したvol.1のテーマは「人的資本経営におけるパーパスの意義を考える」でした。パーパスとは、企業の存在意義のことです。人材版伊藤レポートの中でも「企業理念や存在意義(パーパス)の明確化」が打ち出され、パーパスを掲げる企業が増えつつあります。しかしその一方で、どのようにパーパスを定め社内に浸透させていくのか、手探り状態の企業も少なくないのが現況です。

そこで今回は、パーパスを掲げて人的資本経営に取り組むライオン、カンロ、TSIホールディングスの3社が、現在感じている課題をWSのテーマに設定。参加者は15社から23名。3社が設定したテーマ毎に3つのチームに分かれ、業種や職種を越えて闊達な意見交換を行いました。(テーマオーナーのプロフィールはこちら

WSの後、参加者から「パーパスについて他社も課題を抱えている状況を共有できてよかった」「社内でパーパスを浸透させるためWSを行うのもよい。今回のWS体験を役立てたい」などの意見が寄せられました。

「パーパスの時代。企業と働く人のコミュニケーションはどう変わる、どう変えればよい?」

これをWSのテーマとしたのはライオン人材開発センター企業文化変革担当部長の藤村昌平氏[*3]です。

石けんとハミガキから始まり創業130年を越えるライオンのパーパスは「より良い習慣づくりで、人々の毎日に貢献する(Re Design)」です。「このパーパスを体現している人の集団として社外から認識されなければならない。そのいっぽうで個人にもパーパスがある。自律した個人と会社はどのようにパーパスをすりあわせていけばよいか」と藤村氏は参加者に問いかけました。

WSはまず参加者がテーマに対して抱えている課題を書き出し、それをKJ法[*4]を使って整理していきます。次に、示された課題に対して「もしも……だったら」など見方を変えたアイデアを出す発想転換法を行います。そして最後に課題解決のための方策を提案するという流れで進めました。

約2時間のWSの中では「個人と企業に加えて事業部ごとのパーパスが存在しうる」、「ミッション・ビジョン・バリューなどすでに会社が掲げている事柄とどのようにすり合わせていくのか」など多角的な視点で意見が交わされました。最終段階では、「会社のパーパスに共感する人材を雇用するパーパス採用」、「類似のパーパスをもつ個人が複業的に働ける場をつくる」など、イノベーションにつなげるためのアイデアが出ました。

「なぜパーパスが必要なのか、パーパス自体の存在意義を問う機会になった」と参加者の1人がコメント。「パーパスは大きな傘のようなものかもしれない。社外の人も含めて、その下に入ったり出たりするイメージを抱けたのが今回の大きな気づきだった」と藤村氏は締めくくりました。

ライオンの藤村氏をテーマオーナーとするチームの作業シート

「できたばかりのパーパスをそれぞれ役割の異なる個人や部門にうまく浸透させていくための方法は?」

これは、カンロ広報部長の林麻衣子氏からの問いかけです。創業以来110年、カンロは飴・グミの販売で成長を続け、現在はキャンディの販売価格で国内シェア第1位(インテージSRI+®/全国小売店パネル調査 2022年)を占める老舗企業です。「今後も事業を拡大していく上で会社の存在意義を見直そうとパーパス策定に挑んだ」と言います。2022年に策定したばかりのパーパスは「Sweeten the Future 心がひとつぶ、大きくなる。」です。「未来を明るくしていこうという願いを込め、社内だけでなくお客様や社会に伝えたいと考えた」と、林氏はこの言葉の意味を説明。

策定後に社内調査したところ、共感度70.9%、貢献意欲度73.3%と比較的高い数値が得られたものの、部門や個人の役割によって浸透度に大きな差があることが判明したと言います。「もっとパーパスを社内に浸透させて、自分たちの事業に貢献したいという社内のエンゲージメントを高めたい」と林氏は今回のWSのテーマを設定しました。

WSの進行は他のグループと同じく1)課題出し、2)発想転換、3)アイデア出しの順で行いました。課題として上がったのは、「本社と工場の物理的な距離」「社内でパーパスについて議論する機会が少ない」などでした。最終的には「なぜ自分が働くのかを考えるWSやone on oneミーティング」「パーパスを体現している人を紹介するパーパス・ラリー」「パーパス・アンバサダー」など社内コミュニケーションを活発化するアイデアが数多く出ました。

「課題解決の糸口を見つけるアイデアをたくさん頂くことができた」と林氏は、WSに手応えを感じた様子でした。

カンロの林氏をテーマオーナーとするチームの作業シート

「多様な文化や働き方の混在する組織の中で、“共通言語”としてのパーパスをどのように活用するか?」

このテーマは、TSIホールディングスのTSIイノベーションプログラム推進ディヴィジョン・イノベーション統括部の加賀谷三平シニアスクラムマネジャー[*5]からの問いです。TSIホールディングスは洋服の企画・製造・販売を行うファッションエンターテインメント創造企業です。2011年にサンエーインターナショナルと東京スタイルが合併してできた持株会社で、もともと27あったグループ会社の統廃合や分社化を繰り返し、2023年2月現在でグループ会社が13社、ブランド数60、販売店舗850という「個性豊かで多様なチーム」(加賀谷氏)です。

中期経営計画では2025年までにアパレルOnlyから脱し、ファッションがもたらすエンターテインメントによる価値を創造する企業に変革する方針を掲げています。そうした同社のパーパスは「ファッションエンターテインメントの力で、世界の共感と社会的価値を生み出す」です。

加賀谷氏は、認知、理解・共感、行動、定着の順でパーパスを浸透させようと取り組んでいます。しかし社内では「仕事とパーパスを紐付けることができない」などの声があり、なかなか理解・共感が得られないという課題を披露。参加者からも「(社員にとって)自分ごと化しない」など同様の悩みが上がりました。

「パーパスに意味があるのではなくパーパスに疑問をもつことに意味がある」などの発想転換を経て、最終段階では「パーパスが浸透していない社員を選び、パーパスアンバサダーに任命する」「部門対抗パーパス選手権(パーパス浸透アイデアコンテンスト)」など社員参加型の制度づくりへの提案がありました。

加賀谷氏はWS後「これから社内で展開していくための施策のヒントやアイデアを得られた」と具体的な行動につなげる意欲を示しました。

TSIホールディングスの加賀谷氏をテーマオーナーとするチームの作業シート

*1 持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会報告書~人材版伊藤レポート~
*2 経済産業省によると「人的資本経営とは、経済産業省によると「人材を『資本』として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方」です。出典:人的資本経営 ~人材の価値を最大限に引き出す~
*3 現在藤村氏は株式会社fucanを設立し、代表取締役
*4 KJ法 断片的な情報をカードに書きグループ化していくことで、情報を整理する方法。文化人類学者の川喜田二郎氏が考案したことから、イニシャルにちなんでKJ法と呼ばれる。
*5 加賀谷氏の所属は現在TSI経営企画部TIP推進課シニアスクラムマネジャー兼FES準備室長

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