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子どもの「生きる力」を育む――社会全体で教育を支える仕組みを

Date: 2024.09.30 MON

  • #ソーシャル

  • #新規事業

日本総合研究所 木下友子

社会課題が拡大・深刻化する中、企業には経済的価値の創出だけでなく、社会的価値の創造も求められるようになっています。
SMBCグループが考える社会的価値創造のかたちについて、様々な具体例を交えながら紹介する「社会的価値創造」シリーズ全3回の最終回です。

第1回 社会的営利企業を増やすために
第2回 貧困・格差、虐待の連鎖を乗り越える教育アプローチとは?

教育によって育みたい力とは何か。それによって、学校での学びの大きな軸が決まります。
日本では文部科学省の定める「学習指導要領」が何に力点をおくかが教育現場に影響を与えます
。近年では「生きる力」や「持続可能な社会の創り手」といった表現を耳にされた方もいるでしょう。

「生きる力」を育むための手段としては、「探究的な」学習の過程が重視されています。
探究的な学習とは、
①課題の設定、②情報の収集、③整理・分析、④まとめ・表現、の問題解決的な活動」を発展的に繰り返す学習[*1]です。こうした学習を通し、子どもたちが社会変化に対して受け身的に対応するのではなく、自ら思考し、行動し、より良い人生を創る力を身に着けることを目指しているのです。

より良い教育の実現に向けたこうした動きがある一方で、近年、教える内容の多様化への対応や教員の長時間労働解消など、教育現場が抱える課題が広く知られるようにもなりました。OECD(経済開発協力機構)の調査によれば、日本の小学校の教員の一週間の勤務時間の合計(平均)は54.4時間で、調査参加国15カ国中で唯一50時間を超え最長となっています。その一方、「職能開発活動」にかける時間は0.7時間で、最短となっています[*2]。

こうした状況もある中で新たに探究学習が全面実施されたことについて、学校現場はどのように捉えているのでしょうか。
全国の中学校・高校の教員を対象とした調査によれば、探究学習に取り組むことの必要性について、中学校では7割超の教員が「探究学習は生徒にとって必要」と回答する一方、6割以上の教員が「教師の負担が大きい」と回答しており[*3]、すべての選択肢の中でもっとも多い割合になっています。探求学習の時間については各校で目標や内容を設定することになっており、教科書も定められていないため、その必要性や重要性を認識しつつも、教員の視点から見ると授業準備などに負担を感じる面があるのかもしれません。

学校現場の負担が増える中でも教育の質を担保し、子どもたちの生きる力を育むためには、教育を学校だけに閉じたものにするのではなく、企業など地域のプレーヤーも参加して社会全体で教育を支える仕組みを創ることが有効ではないでしょうか。

これまで、企業と公教育の関わり方というと、校舎などの施設整備を受託したり、教科書などの授業で使う物品の販売をしたり、という面はありました。しかし授業の内容に関しては、限定的な出前授業や職業体験の受け入れのような関わり方に留まっていました。
教育現場に営利企業が関わることに対しては様々な意見があるものの、子どもたちは幅広い人と関わることにより多様な視点を学ぶことができ、企業としても次世代の育成という重要な課題に貢献できます。

一例を紹介します。日本総研では、社会全体で支える教育を実現する方法として、「子ども社会体験科 しくみ~な(以下しくみ~な)」という社会体験カリキュラムを開発しました。
しくみ~なは公教育を通して社会の仕組みを学ぶ機会を公平に提供することを目指しており、①カリキュラム内容と運営方法、②運営資金の2つの観点で、「社会全体で支える」を実現しようとしています。

カリキュラム内容と運営方法について、しくみ~なはオリジナルコンテンツを用いた「事前学習」、ロールプレイを通して社会の一員として終日活動する「社会体験」、社会体験に向けた求職活動やチームビルディングなどの「事前準備」の3つの要素から構成されます。社会体験の内容は、日本総研が公立小・中学校の教員の意見をもらいながら協力企業と共に制作しており、子どもたちは様々な職業・職種や社会の仕組みを、リアリティをもって学ぶことができる仕掛けがちりばめられています。また、事前準備は教員が実施し、社会体験は協力企業等が運営するといったように、運営方法の面でも企業が学校と役割分担をしながら進めます。役割分担といった調整を含むカリキュラムをパッケージとして提供することで、教員の負担を減らすことに貢献します。

運営資金については、地域に所縁のある民間企業や、非営利団体、財団など多様なプレーヤーが協賛金を拠出することにより、運営資金面でも多様なプレーヤーが教育を支えることを目指しています。

「しくみ~な」を通じて目指す「社会全体で支える教育」 出所:日本総合研究所

2024年6月に渋谷区の公立小学校で実施した実証事業では、カリキュラムを体験した児童から「社会は、様々な人が協力し、助け合うことで成り立っていることを学んだ」、教員からは「子どもたちが普段よりも主体的に動いている」といった声や、「学校でもともと計画していたキャリア教育の前プロセスとして良い導入になった」との評価を得られました。また、協力企業からは、「思っていたより高度なことをやっていた」と社会のホンモノ体験を評価する企業トップの声や、子どもたちの個性溢れる振る舞いを見た社員からは「(本物の)社会とはこういうものだ」と、社会の仕組み体験を評価する声が聞かれました。

公教育を主導する自治体や教員の掲げる方針・目標のもとで、地域の企業や非営利団体、学術機関などが教育委員会や学校と連携して教育を広く社会で支えていくことが、教育の質を上げ、教員の負担を下げることにもつながるのではないでしょうか。

*1 文部科学省「小学校学習指導要領(2017 年告示)解説」
*2 国立教育政策研究所「教員環境の国際比較:OECD 国際教員指導環境調査(TALIS)2018 報告書――学び続ける教員と校長―― の要約」
*3 菅公学生服株式会社「総合的な探究の時間(探究学習)」の課題 20237

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