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自然資本の開示とは——TNFDフレームワーク

Date: 2022.10.05 WED

  • #グローバル動向

  • #自然資本

  • #ESG投資・開示

日本総合研究所 二宮昌恵

出典:The TNFD Nature-Related Risk and Opportunity Management and Disclosure Framework Betav0.2

20226月、自然資本観点でのリスク・機会の情報開示を検討するTNFD(自然関連財務開示タスクフォース)より、フレームワークのベータ版第2版が公表されました。TNFDは、投融資先の自然資本への依存度、リスク・機会の認識、さらにその保全への配慮を、投資家や金融機関が意思決定に組み込むことができるよう、情報開示フレームワークの策定を進めており、その内容に注目が集まっています。

TNFDは、2022年3月にベータ版第1版を公開し、今回の第2版に続き、10月に第3版、23年2月に第4版の公開を予定しています。その都度、市場関係者からのフィードバックを取り込み、2023年9月に最終的な提言を纏める予定です。

TNFDとは何か、なぜ企業が自然資本について開示することが求められるのかについては、2021年に「TNFD(自然関連財務開示タスクフォース)とは何か?(前編後編)」や「自然資本を巡る動きが活発化―ネイチャーポジティブへの道のり」という記事で紹介しています。今回は、公表されているベータ版の内容を基に、現時点でどのような開示が想定されているのか、見ていきましょう。

ベータ版フレームワークでは、下記の点について言及されています。

項目 概略
自然を理解するための基本的事項 自然を理解するための基本的な概念や定義を含むガイダンス「自然」、「自然資本への依存関係・影響」、「自然関連リスク・機会」の概念と定義を説明し、それぞれの関係を整理している

TNFDによる開示提言

TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)提言にならい、「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標と目標」で構成されている。ただし、気候関連課題とは違い自然に影響を与える/自然から影響を受ける「場所」によって状況が大きく異なることから、ロケーションベースの評価を重視しており、その評価手法として「LEAPアプローチ」を紹介している

自然関連リスクと機会の評価手法:
「LEAPアプローチ」

自然関連のリスクと機会の評価・分析手法。①企業が自然との接点を有する「場所」や関係する生態系を発見し(Locate)、②その依存関係と影響を診断し(Evaluate)、③自然関連のリスクと機会を評価し(Assessment)、④リスクと機会に対応する準備を行い、投資家に報告する(Prepare)という4つのフェーズがある
指標と目標に関する考え方 LEAPアプローチを行うにあたって、指標の選定や目標を設定する際に考慮すべき、全般的な基本事項を提示している
「自然資本への依存関係・影響」を評価するための指標について LEAPアプローチの中でも、「診断(E)フェーズ」で「自然資本への依存関係・影響」を測定する際の評価指標について、考え方と指標例一覧を提示している
自然関連リスクの評価手法に関する、個別ガイダンスについて ①各産業セクター別、②特定の自然関連課題別、③自然領域(海・淡水・陸・大気)別に、追加の個別ガイダンスを策定することを予告している

出典:「TNFD自然関連リスクと機会管理・情報開示フレームワーク ベータ版v0.2概要」を元に筆者作成

今回は、この内、①基本的な概念となる自然の定義や考え方、②自然資本のリスクや機会の評価方法(LEAPアプローチ)③リスク評価や開示にあたって必要となる指標の考え方について解説を試みます。

【①自然の定義と考え方】
TNFDは、「自然」を4つの領域(陸、海、淡水、大気)で構成されると定義しています。また、自然界は「環境資産」(例:森林、湿地など)というストックで構成されており、その資産から人々やビジネスに便益がもたらされているとしています。金融資産が収益の流れを生み出すのと同様のイメージをしてもらえばいいでしょう。

生態系は、こうした環境資産の要素が互いに相互作用している「生態系資産」として定義され、「生態系サービス」(例:清潔で安定した水の供給など)を支えています。

企業はビジネスを行う上で、何等かの生態系サービスを必要とする「依存関係」にあります。同時に、自然にプラス・マイナス両方の「影響」を与えています。現在の自然への影響は、複数の依存関係等が絡み合い、将来の「自然関連リスクと機会」を生み出す可能性があります。

なお、TCFDにおいては、気候関連リスクを「移行リスク」「物理リスク」の2つに大別していますが、TNFDにおいては3つ目のリスクとして「システミックリスク」を挙げています。これは、生態系が崩壊して機能しなくなってしまうことを指し、一企業に留まらず経済全体に影響が及ぶリスクです。


【②自然資本のリスクや機会の評価方法(LEAPアプローチ)】
LEAPとは、自然関連リスクと機会の総合評価プロセスです。下記表の通り4つの分析フェーズが設けられ、各フェーズを考えるにあたって着目すべき観点が記載されています。

起点となる「発見(Locate)」については、サプライチェーン全体のロケーションを明らかにし、その場所で行われる企業活動に関係する生態系資産などを把握します。それらの生態系の劣化の度合いや重要性を評価し、評価に応じて「優先地域」を特定することを求めています。

その上で、各優先地域にて、企業活動と自然との依存関係や影響について診断(Evaluate)し、重要なリスクと機会を評価(Assess)し、今後の戦略への対応や開示報告を準備(Prepare)する流れになります。

LEAP アプローチにおける指標の種類

出典:TNFD自然関連リスクと機会管理・ 情報開示フレームワークベータ版v0.2概要

なお、第1版でLEAPアプローチの全体像は明らかになったものの、こうしたアプローチは企業にとってこれまで馴染みがないものであり、依存関係把握、影響の診断方法、優先地域の特定方法などについて、産業セクター別や自然課題別に個別具体的なガイダンスを求める声が挙がりました。こうした声を受けて、第34版では、産業セクター別、特定の自然課題別、自然領域別に、より具体的な評価方法の公表が予定されています。

【③評価・開示にあたっての指標の考え方】
自然関連の依存や影響、リスクや機会を把握し、測定するためには、どの様な指標が求められるのでしょうか。第2版では、指標に関する考え方が公表されました。

指標に対する基本的な考え方の1つとして、前掲の表にもある様に、内部の評価目的で用いる「評価指標」と外部への情報開示に用いる「開示指標」とを区別していることが特徴です。これは、報告書利用者に開示される情報は、企業が社内の意思決定のために分析する情報の一部に過ぎないと考えられるため、と説明されています。

また、開示指標については、更に2つのタイプの指標が設定されることになっています。産業セクターなどを超えて世界共通の指標となる「コア開示指標」と、各セクター特有のニーズや各国の規制要件など個別の事情を反映した「追加開示指標」です。

この様な評価指標・開示指標については、第3版以降でより詳しいガイダンスや指標例の提示が想定されます。今回の第2版においては、評価指標のうち、LEAPアプローチの評価(E)フェーズに関連する依存関係と影響に関する指標についてのみ言及されており、指標例の一覧が草稿版として公表されています(第2Annex2)。この指標例一覧は、TNFD16のナレッジパートナーを含む基準団体や科学組織が推奨する、現在市場で使用されている既存の指標をもとに纏めたものとされています。

今後、TNFD20239月の最終報告書までに、開示指標や個別ガイダンスなど残された課題について提案をまとめる予定です。また、並行して20227月から20236月まで、ベータ版フレームワークのパイロット実証を行って、市場からのフィードバックと合わせて、意見を反映させていく予定です。参加企業向けの実務ガイダンスも別途策定・公表しており、TNFDフレームワークを試行的に検討する際の一助となるでしょう。

参照資料
TNFD 自然関連リスクと機会管理・情報開示フレームワーク ベータ版v0.2概要
https://framework.tnfd.global/wp-content/uploads/2022/07/22-22506-TNFD-Framework-Summary-ja_jp.pdf

The TNFD Nature-Related Risk and Opportunity Management and Disclosure Framework Betav0.2
https://framework.tnfd.global/wp-content/uploads/2022/06/TNFD-Framework-Document-Beta-v0-2.pdf

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