2022.02.25 fri

自然資本を巡る動きが活発化——ネイチャーポジティブへの道のり

出典:https://www.naturepositive.org より転載

日本総合研究所 渡辺珠子

2021年は11月に開催された国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)に大きな注目が集まりましたが、生物多様性を中心に自然資本の保全に関する動きも活発化した年でした。6月には、企業の事業活動がもたらす自然資本へのリスクと機会を適切に評価、対外的に報告できることを目指したTNFDが発足しました。それを受けて、「TNFD(自然関連財務開示タスクフォース)とは何か?」(前編後編)という記事を出しました。またCOP26直後にイギリスで開催された主要7カ国首脳会議(G7)では、「G7 2030年自然協約」が採択され、各国首脳が2030年までに生物多様性の損失を止めて反転させる「ネイチャーポジティブ」の達成を目指すことを明言しました。

G7 2030年自然協約では、ネイチャーポジティブに向けて、この先の10年間で(1)移行、(2)投資、(3)保全、(4)説明責任の4つを主要な柱とする行動を取ることが盛り込まれています。

移行とは地域開発やサプライチェーン上にある森林や農地などの自然資本の利用をより持続可能な形にすることを示しています。

投資については、自然資本への投資を増加させるだけでなく、地域開発やビジネス上の意思決定の際には自然資本への影響を考慮することが主流化していくことが重要だとしています。例えば再生可能エネルギー利用を促進するために太陽光パネルを耕作放棄地に設置するという計画を遂行する際に、設置によってその土地の植物や昆虫などの生物多様性にマイナスの影響を与えていないかを検討することが求められる、といったことが考えられます。

保全では、世界の陸地と海洋それぞれについて少なくとも30%を保全または保護し、自然資本の回復をはかるとしています。

説明責任については、国内だけでなくグローバルでも自然資本に影響を与える行動に責任を負い、また取り組みの進捗をレビューすることなどが盛り込まれています(*1)。G7 2030年自然協約は各国首脳が採択したものですが、産業界や金融界と連携して取り組むことや、企業が自然資本をより意識した活動を支援する内容でもあります。冒頭で触れたTNFDは、まさにネイチャーポジティブを実践するための具体的な枠組みとして、ESG投資家を中心に非常に大きな注目を集めています。

TNFDの情報開示フレームワークはまだ完成していないにも関わらず、TNFD発足以降、自然資本に関するリスクと機会を把握し、対応していこうとする企業が海外だけでなく国内でも急速に増加しています。現在、TNFDTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)と同様に、ガバナンス、戦略、リスク管理、指標と目標の4つをコア要素として、自然資本関連のリスクと機会へのアプローチを検討しています。

出典:IWG TNFの非公式テクニカル専門家グループ、TCFD(2017年):気候関連財務情報開示タスクフォースの提言を参考 https://tnfd.global/wp-content/uploads/2021/10/TNFD-Nature-in-Scope-Japanese.pdfより転載

そのため気候変動関連のリスクと機会へのアプローチに自然資本関連のリスクと機会へのアプローチを追加し、効率的に対応できる体制を整え、洗い出したリスクにいち早く対応しようという動きが増えてきているのです。また国内でも、サステナビリティ・リンク・ローンにおいて自然資本へのインパクト指標を考慮する金融機関が現れるなど、投融資においても自然資本が注目されつつあることもこの動きを加速させています。

これから、TNFDなど自然資本関連の情報開示に取り組むのであれば、まずは自社のサプライチェーン上での事業活動によって、どのような影響を生物多様性などの自然資本にもたらすのかを検討するところから始めるのも一案です。

なおTNFDフレームワークのベータ版は2022年の第一四半期にリリース予定です(*2)。

足元の自然資本の議論において忘れてはいけないのが、生物多様性条約(Convention on Biological Diversity)第15回締約国会議(CBD-COP15)です。202110月に中国の昆明でCBD-COP15の第一部が開催され、2010年に採択された「愛知目標」に代わる2030年を期限とする新たな目標を確実に採択することを盛り込んだ昆明宣言が発表されました。この次期世界目標は、2022428日〜5月8日に同じく昆明で開催されるCBD-COP15の第二部において、各国間の交渉を経て採択される予定です。交渉結果や目標の内容によっては、TNFDのフレームワークにも何らかの影響を及ぼすと考えられており、TNFDに取り組む企業はCBD-COP15関連の動きも注目していくことが必要です。

1:外務省、G72030年「自然協約」を参照
*2:TNFD News 16 December 2021を参照

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