解説記事
生物多様性条約COP15の成果とその波及について
Date: 2023.03.02 THU
#グローバル動向
#気候変動
多くの企業が取り組む温室効果ガス削減は、気候変動枠組条約が根本にあります。この条約と同時期に成立した生物多様性条約(CBD)は、科学的な知見の積み上げに時間がかかってきましたが、2022年12月7~19日に生物多様性条約第15回締約国会議(CBD COP15)を開催、生物多様性のパリ協定という声も聞かれる成果に繋がりました。これにより、温室効果ガスと同様に、民間企業への取り組みを求める流れが強まることになったといえます。
今回は、COP15でどのような事が定められたのか、見ていきましょう。
2030年目標の特徴・企業との関わり
CBD COP15では、「生物多様性の損失を止め、反転させ、回復軌道に乗せるための緊急行動をとる」とし、2030年目標として23のターゲットを定めています[*1]。企業にも関係の深い目標が定められており、例えば「3. 陸地の海洋のそれぞれ少なくとも30%を保護地域及びその他の効果的な手段(OECM)[*2]により保全する(30 by 30)」については、国内では企業が保有する土地も含めなければ達成が難しいという前提で制度検討が進められています。「7. 環境中に流出する過剰な栄養素や、農薬及び有害性の高い化学物質による全体的なリスクを、それぞれ半減する」という目標は、農林水産省の定める「みどりの食料システム戦略」よりも一見高い目標のようにも受け取られています。いずれも数値目標がある点が大きな特徴であり、これまでの企業活動を制限・変更していくことが求められていくでしょう。
他方、新しいビジネスの方向性を感じさせるキーワードも含まれています。「11. 自然を活用した解決策/生態系に基づくアプローチを通じて、自然の調整機能を回復、維持、強化する」という目標については、自然に根ざした社会課題の解決策(Nature-based Solutions: NbS)と呼ばれる、自然・生態系の機能を強化することで防災や気候変動といった課題に対応する技術・サービスのニーズに繋がります。温室効果ガス削減のための省エネ技術や再生可能エネルギーのように、規制や制度整備とともに新しい市場創出につながる可能性があるでしょう。
「18. 生物多様性に有害なインセンティブ(補助金等)の特定、およびその廃止又は改革を行い、少なくとも年間5000億ドルを削減するとともに、生物多様性に有益なインセンティブを拡大する」という目標も、国の資金制度の変更を通じて既存市場を見直すとともに、新たな市場創出を後押ししていくことが期待されています。
金融を通じた取組加速
さらに、「15. ビジネス、特に、大企業や金融機関等が生物多様性に係るリスク、生物多様性への依存や影響を開示し、持続可能な消費のために必要な情報を提供するための措置を講じる」は、企業に非財務情報の情報開示を求めるものです。温室効果ガスのTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)と同様、TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)による企業の情報開示の枠組みが2023年9月に策定される予定であり、開示された情報を基に金融機関のファイナンスも持続可能なものに変わることが期待されています。
CBD COP15においては、非財務情報の開示に関する国際基準を策定する国際サスティナビリティ基準審議会(ISSB / International Sustainability Standards Board)の議長が自然資本の組み込みを進めることを表明したほか、機関投資家グループから投資家の関与する重点企業を特定して自然資本の行動を促すとする計画も発表されました。
国際的な潮流を踏まえつつ、規制・制度に先んじた企業行動の変容を訴求することで、企業の持続可能な発展を示していくことが求められます。
[*1]UN environment programme
[*2]OECM(other effective area-based conservation measure)とは、保護地域以外の地理的に画定された地域で、付随する生態系の機能とサービス、適切な場合、文化的・精神的・社会経済的・その他地域関連の価値とともに、生物多様性の域内保全にとって肯定的な長期の成果を継続的に達成する方法で統治・管理されているもの。
民間取組等と連携した自然環境保全(OECM)の在り方に関する検討会資料より
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