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気候変動と人口動態から考えるサステナビリティ 2023-2024(後編)

Date: 2024.01.17 WED

  • #初学者

  • #グローバル動向

気候変動と人口動態という世界的な2つのメガトレンドに着目し、日本総合研究所の村上芽氏にお話を伺いしました。
前編は気候変動について、後編は人口動態について、2024年以降の動向を見通します。

——人口動態に関して2023年に注目したトピックは?

いろいろな人と話をしている中で、人口問題への注目が高まっているという肌感覚があります。人口減少や少子高齢化が予想以上に急ピッチで進んでいるので、その危機感から関心が高まっているのではないでしょうか。

2030年の日本の人口構成 出典:国立社会保障・人口問題研究所 2070年までの予測は国立社会保障・人口問題研究所(https://www.ipss.go.jp/site-ad/toppagedata/pyramid_a.html)

世界レベルで見ると、インドが世界一の人口を擁する国となりました。このインパクトは大きいです。オリンピックの競技にクリケットが出てきますし、どの国に大きな発言力があるかということに変化が起きています。

世界の国・地域の総人口増減 出典:世界人口白書2023より

もうひとつは、アメリカが2080年をピークに人口減少するという予測を公式では初めて発表しました。もっと早くに人口減少に転じるのかと思っていましたが、米国はそこまでは減少しないのだと驚きました。移民を引き付けることができるから人口を維持できる。それが米国の強さなのだと思いました。

——日本は今後移民を受け入れることになるでしょうか?

日本の長期人口推計では、外国人人口が増えるとされています。でも、国境を開けば移民が増えるという単純な話ではないと思います。先進国では今後、移民争奪戦になっていくことが予測されるからです。

ゆえに、どれくらい魅力的な環境で働けるか、どの国に移民すると最も希望が持てるかが重視されるようになると思います。

しかし、日本は差別が根強くある国なので、不利だと思っています。
例えばドイツでは、生まれてくる子どもの4分の1は移民によるものです。親が移民で無職でも、子どもはきちんと保育所に入りドイツ語教育を受けることができます。ドイツでも移民反対はありますが、人権や平等についてのサポートがあるのです。

いっぽう日本では、例えば親の所得水準が低い地域の保育所ほど、現場で様々な対応が求められ、現状は働く人の善意に頼っていると聞きます。現場だけに頼らず、社会的にサポートしていく必要があります。

また、移民が増えると自分たちの職が奪われると危機感を抱く人がどの国にもいます。それが特に選挙に影響しているのが米国です。欧州でも、移民反対・抑制派が票を伸ばしているのが近年の流れです。2024年は米国の大統領選挙がありますが、極端な議論に走らず、民主主義の決断がどのようになされるかが注目ポイントではないでしょうか。

この先の民主主義はどうなるのか——。今の制度が完璧なものではないことをみんな薄々感じていると思うので、これからを良くしていく意識を持つべきだろうと思います。

——日本では、外国人労働者に限らず人権が守られてないことが多いと感じます。改善する手立てはあるのでしょうか。

日本社会は人権に対する理解や意識が基本的に低く、それが国際的な弱みになっていると思います。例えば「国内人権機関」と呼ばれる、政府から独立して監視する機関もまだ設置されていません。

2023年は、芸能関係で人権に関するセンセーショナルな問題が一気に出ました。スポーツ界でも体罰など、精神と肉体の両方に関わる健康が着目されるようになってきています。

すべての組織で、人間同士のトラブルや軋轢は当然あり得ます。でも、これまで支配していた「我慢してでもやらなければダメ」という価値観に対して、このままではいけないという共通認識が出てきたと思います。

2023年に顕著になった問題を、一過性のモグラたたきで終わらせず、根っこにある問題に対峙し、仕組みを整えるための契機にするべきだと思います。

——中国、パキスタン、ナイジェリアなども人口が増えています。今後、世界の思想の勢力図にも影響を与えるのではないでしょうか。

宗教別に人口を見ていくと、当面はキリスト教が増えていきます。これはアフリカの人口が増加するからです。
無宗教の人は子どもが少ない傾向にあるので、例えば子を持たない無宗教の人が増えると、世代を経ると無宗教人口は減るとも考えられます。そうすると、宗教観が親子で似るとすれば、比較的宗教観の濃い人口の割合が高まるかもしれないという見方があります。
さまざまなシナリオが考えられることから、国の名前だけでなく、宗教や文化など、さまざまな角度から人口の中身に注目していきたいと思います。

——島や海沿いの町など、温暖化による海面上昇による人口移動も今後起こるのではないでしょうか。

人類の歴史を振り返ると、大移動を繰り返しています。気候変動による人口移動が起こらないとは言えないし、その移動と共にもしかすると国境が移動することもあり得ます。

先ほど移民が住みやすい国の制度の話をしましたが、気候変動によって住みやすい場所も変化すると思います。それが、世界の地政学にも影響し、例えばロシアなどの北方が栄え、米国の国力が弱まるかもしれません。

村上芽氏 写真:生田将人

IPCCの報告書[*1]などを見ると、科学者が気候変動について正しく伝えようと努力している姿が伝わります。

GGPでもそうした事実を有権者・消費者にきちんと伝えて行く必要がありますね。日本の岩盤は、実は消費者だと思うからです。先ほど脱炭素に対する産業界の抵抗があるという話をしましたが、消費者がついてこないからできませんという声も強い。結局消費者が価格の安いものを選ぶので、そこに勝てない。日本人は利便性が大好きで不便なものに対する拒否感が強い。本当は消費者が強い立場であるはずだから、本当に変わらなければならないのは誰なのか——と。

科学と一般の人との対話がじっくりなされ、流行廃りに踊らされることなく、どれだけじっくりできるのか。それは時間がかかるけど、中長期的に国の力や人の力が大きく影響していくと思います。
20231210hoops link kobeにて、聞き手:多田理紗子/日本総合研究所、山北絵美、前田麻里/SMFG 文:有岡三恵/Studio SETO

*1 関連記事:IPCC第6次評価報告書を読み解く(前編)(後編

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