2021.04.07 wed

緊急企画:脱炭素社会移行による事業への影響(第1回)各国首脳が集う気候変動サミットに注目

我が国は、2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指すことを、ここに宣言いたします。2020年10月26日の菅首相の所信表明演説以後、脱炭素社会への移行が加速しています。国際的な議論はさらに活発化しており、国際協調の観点から日本国内でも議論が本格化しています。特に政策による経済活動への影響は非常に大きなものになる可能性が高く、すでに2050年カーボンニュートラルを宣言し、対策を始めた企業もでてきています。こうした脱炭素社会への移行は、私たちのビジネスにどのような影響を与えるのでしょうか。GGPでは緊急連載「脱炭素社会移行による事業への影響」を企画し、気候変動と脱炭素社会について分かりやすく解説していきます。(GGP事務局)

撮影:Pool/Getty Images

日本総合研究所 村上芽

202142223日、米国のバイデン大統領が主催で世界各国の首脳40人を招いて「気候変動サミット」(Leaders Summit on Climate)を開催します(*1)。日本の菅首相も参加を予定しています。ホワイトハウスから出された開催のメッセージでは、「より強く、より踏み込んだ気候対策が緊急に必要であり、かつ、そこに経済的メリットがあること」が強調されています。今後10年間の行動が、平均気温の上昇を1.5度に抑えられるかどうかを決する、と述べられているのです。

この意気込みからは、脱炭素社会への移行(トランジション)が、想像以上に速いスピードで進む可能性を指摘できます。「脱炭素社会への移行」は、事業活動を行う国や地域の法制度・政策の変化や、消費者の行動変化を通じて産業構造が大きく変わることを意味します。

そこでまず、気候変動サミットを前に、脱炭素社会への移行に関するキーワードを確認しておきましょう。これらに関わる事業への影響については次回以降に解説をしていきます。

①パリ協定
201512月にパリで行われた国際会議(気候変動枠組条約の第21回締約国会議、COP21)で採択された、2020年以降の気候変動対策に関する国際的な枠組み。先進国・途上国問わずすべての国が参加し、平均気温の上昇を1.5度以内に抑えることを努力目標とする。参加国は5年ごとに国別の削減目標(NDP)を設定し、提出する。2016年に、米国(オバマ大統領(当時))と中国(習近平国家主席)が批准したことで、採択翌年にスピード発効した。米国はトランプ前大統領政権下で脱退を表明していたが、バイデン政権下で今年2月に復帰した。

②TCFD
Task Force on Climate-related Financial Disclosures(気候関連財務情報開示タスクフォース)の略称(*2)。201512月、FSBFinancial Stability Board、金融安定理事会)が設立した。G20財務大臣・中央銀行総裁会議からの課題提起を背景にしながら、民間により構成される。気候変動対策を誤ると金融市場の安定に悪影響を及ぼすという考えのもと、投資家・金融機関にリスク認識と対策を促し、同時に企業に情報開示強化を求めた。単に温室効果ガス排出量の開示を行うのではなく、気候変動の財務への影響について、経営の意思決定・戦略・リスク管理・指標や目標の明示を求めている。日本では経済産業省が2018年にガイダンスを発表し、TCFDコンソーシアムが設立された。英国をはじめいくつかの国では、TCFD提言による情報開示を制度化することを打ち出している。

③気候変動サミットと気候変動対策を主たるテーマとする2021年の国際会議
米国のバイデン大統領が主催する気候変動に関する首脳会議(20214月)。米国はここまでにパリ協定に基づく削減目標(NDP)を発表予定。2021年にはこのほか、6月にG7(主要7カ国・地域)首脳会合(イギリス、現地開催予定)、9月に国連総会(米国)、10月にG20(主要20カ国・地域)の首脳会合・関係閣僚会合(イタリア)、11月にCOP26(気候変動枠組条約の第26回締約国会議、イギリス)が予定されている。新型コロナウイルス感染症対策に加え、コロナ後の世界の気候変動対策が主要議題となる。

④カーボンプライシング
温室効果ガス排出量(=カーボン)に値付け(=プライシング)することで、主に企業が温室効果ガス排出量を減らす自主的な行動を促すこと。代表的な手法には、排出量に税金を課すこと(炭素税、地球温暖化対策税、環境税などとも呼ばれる)や排出量の枠を事前に決めて取引すること(排出量取引、排出枠取引、排出権取引などと呼ばれる)が挙げられる。欧州や米国の州政府を中心に国内・域内の制度が運用されているほか、炭素調整メカニズムなどの呼び名で、国際間での仕組みも検討されはじめている。プライシングの制度設計により、実際の削減効果を生むかどうかが左右される。

⑤炭素除去技術とCCUS
大気中の温室効果ガスの濃度を下げるためには、大気にこれ以上温室効果ガスを排出しないこと(排出削減)と同時に、大気からそれを除去する技術にも着目が集まる。ネガティブエミッション技術ともいう。CCUSはその一つで、排出された二酸化炭素を吸収し、分離・貯留して利用することを指し、「Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage」の略。似たようなものにCCSCarbon dioxide Capture and Storage)があるが、利用まで視野に入れるのがCCUSである。CO2を排出源(工場や発電所など)から吸収し、油田に戻したり化学原料にしたりする実験が行われている。

⑥EUタクソノミー
EU(欧州連合)が進める、「何が持続可能性に貢献する経済活動か」を定義する分類集。タクソノミーとはもともと分類学を意味する。定義を行うことにより、脱炭素社会の構築に向けて必要な巨額の投資を誘導しやすくなるという考え方に基づく。20206月の欧州議会で法制化が可決された。欧州委員会の専門組織「持続可能性のための金融に関するハイレベル専門家会議」(略称TEG)が20203月に発表した最終報告書をもとに、欧州委員会は気候変動の緩和と適応に関するタクソノミー原案を1120日に公開。1218日までのパブリックコメント受付には、全世界から46,590件が寄せられた。欧州連合では2021年中の委任法令発行を目指して、詰めの協議が続けられている。

次回は、パリ協定の具体的な内容とパリ協定が主要国の政策へどのように影響を及ぼしているかについての解説を予定しています。

*1:気候変動サミットのプレスリリース
*2:TCFD公式サイト

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