2021.06.04 fri

緊急企画:脱炭素社会移行による事業への影響(第6回)次世代エネルギー基軸は「水素」に

福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)。写真提供: NEDO

日本総合研究所 渡辺珠子

3では2兆円のグリーンイノベーション基金が配分される18事業を概観し、注目する取組として水素エネルギーを取り上げました。基金の中で必須とされている3つの要素、①電化と電力のグリーン化(次世代蓄電池技術等)、②水素社会の実現(熱・電力分野等の脱炭素化するための水素大量供給・利用技術等)、③CO2固定・再利用(CO2を素材の原料や燃料等として活かすカーボンリサイクルなど)の中から、今回は具体的な事例として世界最大の水素製造施設を解説していきます。

今年は、オリンピック・パラリンピック東京2020大会の聖火として水素が活用されるだけでなく、選手村でも水素によって発電した電力が活用されるなど、3つの要素の中でも特に水素エネルギー利活用において大きなイベントが控えています。

水素は水だけでなく下水汚泥、食品廃棄物や廃プラスチックなどさまざまな資源から製造することができ、電気だけでなく熱エネルギーに変換することができ、そして大量に長期での貯蔵が可能です。そのため、エネルギー自給率が低い日本においては単なるエネルギー源としてだけでなくエネルギー安全保障の観点からも期待が寄せられています。水素の製造方法は複数ありますが、中でもCO2フリー水素と呼ばれる、再生可能エネルギー由来の電気を用いて作られる水素は、脱炭素社会に向けた具体策として注目されています。将来的には、製造から貯蔵、利用に至るまでCO2フリー水素を供給するシステムを確立させ、水素を核とした次世代のエネルギーインフラを構築するための研究開発が進められています。

その大規模な研究開発事業の一つが、20203月に稼働を開始した福島県浪江町にある「福島水素エネルギー研究フィールド(Fukushima Hydrogen Energy Research Field、以下FH2R)」です。FH2Rは国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、東芝エネルギーシステムズ、東北電力、東北電力ネットワーク、岩谷産業、旭化成が取り組む実証事業です。

FH2Rでは、敷地内の20MWの太陽光発電を利用して、世界最大級となる10MWの水素製造装置で水を分解し、毎時1,200N㎥(定格運転時)のCO2フリー水素を製造し、貯蔵します。この水素の製造と貯蔵は市場の水素需要予測に基づいて行われます。また再生可能エネルギーを最大限利用するためには、出力変動の大きい再生エネルギー由来電力の需給バランスを調整する機能が必要です。そのため水素製造量を調整することで、電力系統の需給バランスの調整を行います。したがって、この実証事業の最大の課題は、市場の水素需要予測に基づく製造・貯蔵と、電力系統の需給バランス調整の最適な組み合わせを実現することです。

FH2R事業の全体像。図提供:NEDO

参加企業である東芝エネルギーシステムを有する東芝グループは、1960年代より水素関連技術として燃料電池に着目し研究開発を進めており、企業の工場や自治体の施設向け純水素燃料電池システムや自立型水素エネルギー供給システムなどを提供しています。そのためFH2Rではプロジェクト全体のとりまとめと、水素エネルギーシステム全体の最適化の検討を行っています。また岩谷産業は1941年から水素販売事業を開始し、日本で初めて商用水素ステーションを開設するなど、積極的に水素の利用開発を推進している企業です。圧縮水素や液化水素メーカーとして国内トップシェアを持つ同社は、FH2Rでは水素需要予測システムおよび水素貯蔵・供給関連の技術やソリューション検証を担っています。東北電力と東北電力ネットワークは、電力の安定供給のための電力系統の需給バランス調整を主に担当しています。旭化成は、FH2R向けに10MWの水素製造装置を新規設計し納入したサプライヤーでもあるため、主に水電解装置関連の技術を担当します。

FH2Rの実証フェーズは20232月末まで行われる予定です。実証過程で開発、検証された技術は次世代のエネルギーインフラを形成する重要な要素です。どのような成果がもたらされるかに注目が集まります。

脱炭素に向けて世界各国が関連する技術開発やそれらを商業化する取組を加速させています。グリーンイノベーション基金によって、上述の①電化と電力のグリーン化、②水素社会の実現、③CO2固定・再利用の3つに関連する研究開発事業が継続的に支援されることにより革新的な技術の早期確立や社会実装の促進が期待されます。

次回は緊急企画の最終回です。脱炭素に関して注目すべき今年のイベントや取組などを取り上げます。

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