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緊急企画:脱炭素社会移行による事業への影響(第4回)グリーン電力の鍵握る洋上風力発電

Date: 2021.05.24 MON

  • #気候変動

  • #エネルギー

日本総合研究所 渡辺珠子

洋上風力発電のイメージ 写真提供:秋田由利本荘洋上風力合同会社

3回ではグリーンイノベーション基金を取り上げ、配分対象となる18事業の中から洋上風力について簡単に課題を確認しました。洋上風力は陸上に比べて強い風が得やすいため、発電規模の大型化と発電コストの削減が期待でき、多くのサプライヤーを抱える産業であるがゆえに経済波及効果が期待できる事業です。そのため「再生可能エネルギー主力電源化の鍵」とも言われています。

2020年12月、「洋上風力の産業競争力強化に向けた官民協議会」は、洋上風力発電の導入目標を2030年までに1,000kW2040年までに3,000万~4,500kWと掲げました(*1)。20183月末時点での日本の風力発電導入量が350.3kW(*2)であることを考えると、かなり意欲的な目標です。また同協議会では現在、洋上風力産業の多くは国外に立地しているものの、日本国内にも潜在力のあるサプライヤーが存在していることを指摘し、洋上風力建設にかかる国内調達比率を2040年までに60%とし、また着床式(陸地に近い比較的遠浅の海岸や港湾などに、風力発電プラントの基礎を海底に固定して建設する方法)発電のコストを2030年~2035年までに89/kWhにするという目標も掲げています(*3)。

2030~40年に向けた洋上風力発電のエリア別導入イメージ

洋上風力の産業競争力強化に向けた官民協議会「洋上風力産業ビジョン(第1次)」をもとにGGP作成

洋上風力発電の産業競争力を強化する

洋上風力発電では欧州が特に進んでいます。欧州では2000年代以降、洋上風力発電の制度整備を進め、事業実施区域の選定や電力系統の確保などを政府が積極的に支援してきました。その結果、発電設備の大規模化が進み、それに伴って産業集積が促進され、さらに建設や発電コスト低下が実現しています。特にイギリスは洋上風力発電に積極的に取り組んでいる国で、2019年までに10GWの発電設備を導入し、国全体の電力の10%近くを供給しています。2020年には世界最大規模の洋上風力発電システムを本格稼働させ、同年の発電容量はおよそ10.3GWと欧州でもその規模は最大級です(*4)。なお、イギリスは2030年までに発電容量を40GWまで拡大し、電力の3分の1を洋上風力発電で供給する計画を推進中です(*5)。

日本はその地形の特性上、陸上では風力発電の設置場所が限られるため、市場が十分に形成されず、国内サプライヤーの撤退が相次いだ過去がありました。しかし、周囲を海に囲まれた地形は、洋上風力発電においてはポテンシャルの高い国だと言われています。2019年には「海洋再生可能エネルギー発電設備に係る海域の利用の促進に関する法律(再エネ海域利用法)」が施行されるなど、洋上風力発電産業の強化を促進する環境が次第に整いつつあります。再エネ海域利用法では、国が海洋再エネ発電事業を促進する海域を指定することや、漁業従業者や海運業者など海を利用する事業者との調整の枠組みを設けるなどが可能になります。

また政府の公募によって選ばれた事業者は、指定された海域を最大30年間、占用する権利を与えられるため、発電・供給の実行までに時間が必要な洋上風力発電事業が進めやすくなることが期待されています(*6)。洋上風力発電は脱炭素社会の実現だけでなく、日本の国際競争力強化を図るという意味でも重要視されている取り組みなのです。

地域との対話力が強み

2020年7月、再エネ海域利用法に基づき、秋田県由利本荘市沖が海洋再エネ発電事業の促進区域の一つに指定されました。この由利本荘市沖で2015年から洋上風力発電事業を進めていたのが太陽光、木質バイオマス、地熱、陸上風力、洋上風力など様々な再生可能エネルギー事業を行うレノバです(*7)。

開発・建設中の事業を含めると国内外25カ所の合計設備容量は180kWに達し(214月末現在)、国内屈指の規模に成長を遂げつつあります。レノバの強みであり特徴は、再エネ発電事業に特化した経験豊富な国内外の専門家集団を擁し、「自然や地域との共存共栄」を具現化するオーダーメイドの発電所開発・運営ができる点です。

2017年より海底地盤調査を開始(上)。海生動物や騒音など環境への影響調査を行うとともに(左下)、丁寧な住民説明会(右下)を行っている。写真提供:レノバ

例えば住民説明会を法定のもの以外にも、町内会を対象とした小規模のものから、市内全域を対象とした大規模のものまで、数十回にわたって開催し、地域住民ととことん向き合い対話を重ねて信頼を構築してきました。また、地元の漁業関係者と一緒に海洋調査を実施するなど、地域社会と共に洋上風力発電事業を推進しています。20204月には、住民の要望を踏まえて地域の特徴を生かした計画策定の指揮を執るべく、同社の副社長執行役員COO(最高執行責任者)が現地事務所に赴任しています。一貫したプロジェクトマネジメントのノウハウと実行チームを持っているからこそ、必要な場面で住民などの地域関係者との対話を実施し、協働していきやすいと言えるでしょう。

また、洋上風力発電事業は自然環境と地域社会のニーズを正しく理解しつつ、目的に向けてオーダーメイドで事業検討を推進することが必要です。地域を尊重し、長く良好な関係を築き、地域の課題を解決する事業を具現化できるのが、レノバの強みです。

洋上風力発電はその建設に多数のサプライヤーが必要であることから、産業育成・強化の観点でも期待される事業です。しかし、促進区域に指定されたと言っても、洋上風力発電事業には事業性の調査・検討から運転開始まで長期間が必要であり、そこに暮らす地域の人々や社会・環境を無視するわけにはいきません。技術だけではなく、地域社会との協業が真に求められる産業でもあるのです。

次回は第3回で取り上げたもう一つの分野である水素エネルギーについて、技術や事例の解説を行います。

*1:(出典)洋上風力の産業競争力強化に向けた官民協議会「洋上風力産業ビジョン(第1次)概要」P.4
*2:(出典)日本原子力文化財団「原子力・エネルギー図面集」
*3:(出典)洋上風力の産業競争力強化に向けた官民協議会「洋上風力産業ビジョン(第1次)概要」P.8
4:(出典)UK Government “Energy and Climate Change: evidence and analysis”
5:(出典)Energy Central “The United kingdom plans 40 GW of offshore wind by 2030”.
6:資源エネルギー庁「日本でも、海の上の風力発電を拡大するために」参照。
7:レノバは、コスモエコパワー、JR東日本エネルギー開発、東北電力と共同出資で、秋田由利本荘洋上風力合同会社を設立し、洋上風力発電設備の整備を進めている。

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