解説記事
緊急企画:脱炭素社会移行による事業への影響(第3回)グリーンイノベーション基金2兆円はどう使われる?
Date: 2021.05.14 FRI
#気候変動
#イノベーション
亀崎惇之介 日本総合研究所 ESGリサーチセンター研究員
2021年4月に開催された気候変動サミットで、日本政府は2050年のカーボンニュートラル実現に向けたマイルストーンとして、2030年に温室効果ガスの排出量を2013年度比46%減とする目標を発表しました。
そこで今回は、日本がこうした目標を達成し脱炭素社会を実現していく上で、必要となる施策や注目すべき技術について、確認しましょう。
脱炭素社会の実現に向けて、日本政府は企業の研究開発を支援するため2兆円のグリーンイノベーション基金を設立し、配分対象となる18事業(下表)を公表しました。現在、分野ごとのワーキンググループ(WG)で、金額の配分や社会実装に向けた計画が検討されています。
分野名 | 想定プロジェクト名 |
グリーン電力の普及促進分野 |
①洋上風力発電の低コスト化 |
②次世代型太陽電池の開発 | |
エネルギー構造転換分野 | ③大規模水素サプライチェーンの構築 |
④再エネ等由来の電力を活用した水電解による水素製造 | |
⑤製鉄プロセスにおける水素活用 | |
⑥燃料アンモニアサプライチェーンの構築 | |
⑦CO2等を用いたプラスチック原料製造技術開発 | |
⑧CO2等を用いた燃料製造技術開発 | |
⑨CO2を用いたコンクリート等製造技術開発 | |
⑩CO2の分離・回収等技術開発 | |
⑪廃棄物処理のCO2削減技術開発 | |
産業構造転換分野 | ⑫次世代蓄電池・次世代モータの開発 |
⑬自動車電動化に伴うサプライチェーン変革技術の開発・実証 | |
⑭スマートモビリティ社会の構築 | |
⑮次世代デジタルインフラの構築 | |
⑯次世代航空機の開発 | |
⑰次世代船舶の開発 | |
⑱食料・農林水産業のCO2削減・吸収技術の開発 |
出典:経済産業省産業構造審議会グリーンイノベーションプロジェクト部会(2021年4月9日発表)
これら18事業のうち、ここでは、国内CO2排出量の約4割を占める発電分野とそれに次いで多い鉄鋼分野(約1割)に深く関連する(*1)、①洋上風力発電と③~⑤の水素エネルギーに関する取組について見ていきたいと思います。
まず、洋上風力発電の導入背景とその課題について確認しましょう。
これまで国内では、陸上で風力発電所の設置が進んできましたが、陸上風力発電の課題として、日本という狭い国土では発電に適した土地が限られ、大規模化が困難という問題がありました。これに対して、広い海域を利用できる洋上風力発電の導入余地は大きいと期待され、注目が集まっています。
ただし、本格的な導入にあたっては課題も残っています。例えば、送電網には新たな再生可能エネルギーを送電するための空き容量が限られることや、環境アセスメントや海域近隣の地元住民との調整を含め高い設置コストが掛かること、などが挙げられます。今後は、送電網の運用ルールの見直しや、風車の国内製造比率向上によるコスト抑制(①)、などの取組が進められていく模様です。特に風車は部品点数が数万点と多く、発電機やベアリング、ブレード用炭素繊維など関連産業への波及効果が期待されます。
続いて、水素エネルギーに関する取組について見てみましょう。
水素はさまざまな資源から取り出すことができる物質で、電気にも熱エネルギーにも変換可能という利点があり、幅広い分野での活用が期待されています。具体的には、すでに市販されている燃料電池自動車や家庭用燃料電池(エネファーム)だけでなく、実証実験として、製鉄所の製鉄工程に水素を活用する実験(⑤)や、火力発電所で化石燃料に水素を混ぜて燃焼させCO2排出を削減する実験が進められています。
幅広い領域での活用が期待される水素ですが、本格的な利用に向けて乗り越えるべきハードルも多く残っています。まず、発電・産業分野で用いるには水素を大量に生産・貯蔵・輸送する仕組みを整えなければならない(③)ほか、燃料電池自動車のさらなる普及にあたってはより多くの事業者に水素ステーション事業など小売市場への参入を促す取組が必要となります。さらに、現在の大量生産技術では化石燃料を使用することとなるため、CO2排出抑制と大量生産を両立する技術の開発が求められています(④)。
2050年のカーボンニュートラルを実現する上で重要となる、洋上風力発電と水素エネルギーに関する取組について解説しました。次回以降、それぞれの取組について技術や事例をさらに解説していく予定です。
*1:(出典)経済産業省産業構造審議会グリーンイノベーションプロジェクト部会グリーンイノベーション基金事業の今後の進め方について