2021.05.28 fri

緊急企画:脱炭素社会移行による事業への影響(第5回)国際エネルギー機関(IEA)「2050年までにネットゼロ」

日本総合研究所 村上芽

2021518日、国際エネルギー機関(IEA)が、「Net Zero by 2050」と題した、世界のエネルギー産業向けの脱炭素のロードマップにあたる報告書を発表しました。「There is no need for investment in new fossil fuel supply in our net zero pathway(ネットゼロに向けて進む道において、新たな化石燃料供給のための投資はもう必要がない)という強いメッセージとともに、自動車や発電分野などで、化石燃料から再生可能エネルギーへ転換していく工程表を作ったのです。

「と言っても、4月の米国での気候変動サミットの前後から、政治家や経営者がこぞって宣言している話と一緒でしょ?」というご意見があるかもしれません。しかし、こればかりはぜひ、プレスリリースだけでも目を通されることをお勧めします。

この報告書が重要であると考える理由は、まず、今年11月にイギリスで開催されるCOP26(気候変動枠組条約の第26回締約国会議)の準備のために作られたもので、これからの議論のポイントが入っていると考えられることです。報告書では最初に、現時点で各国が明確にしている削減策では2100年に気温上昇は2.7度に達し、新たにコミットされたネットゼロの期限が守られても同2.1度に達してしまうことを述べ、すべての政府がより大幅に踏み込んだ強い削減政策を講じるべきだとしています。

特に2030年までの間には、既に確立された技術を総動員すべきという見方を強調しています。つまり、現時点よりもさらに多くの国がネットゼロを約束したり、約束済の国がその前倒しを行ったりするのを求めているとも読み取れるのです。加えて、カーボンプライシング政策についても実施が当たり前との前提になっています。

そして何よりも、ほかでもないIEAが作った報告書だという点で大いに注目に値します。IEAは国連の機関ではなく、OECD(経済協力開発機構)加盟国でかつ石油の「備蓄基準(前年の当該国の1日当たり石油純輸入量の90日分)を満たすこと」を参加の要件とする機関です。第1次石油危機の後に設立されたこともあり、機関として掲げる目標は「エネルギーの安全保障」「経済成長」「環境保護」「世界的なエンゲージメント」なのです。そのため、これまでは化石燃料をいかに賢く使うかを主張の本筋とし、脱炭素社会に向けたシナリオ作りにおいては「どちらかと言えば後ろ向き」、「遅れている」という評価で通っていました。

「あのIEAが、化石燃料への新規投資停止と言うようになるとは」という目でいくつかの主な工程項目を確認しておきます。大きな影響を受ける市場は、石油・ガス・石炭、電力、建設・不動産、自動車です。

2021年:新たな削減対策なしの石炭火力発電所の新規開発を停止

2021年:新たな石油・ガス田の開発や石炭炭鉱の開設・増設の開発を停止

2030年:全ての新たな建築物がゼロカーボン対応に

2030年:世界の自動車販売の60%が電気自動車に

2030年:太陽光発電と風力発電が年間1,020GW増加(筆者注:2020年実績は再エネ発電全体で261GW)

2030年:先進国では削減対策なしの石炭火力発電が全廃

2045年頃:先進国全体でネットゼロを達成

出所:報告書20ページ 図表「Key milestones in the pathway to net zero」より筆者訳出。
なお、「削減対策なし」とは、通常はCCS(炭素吸収・貯留)なしのことを指します。

報告書ではまた、産業界におけるエネルギーやネットゼロに関連するマイルストーンにとどまらず、広く経済・社会に関する事項にも言及しています。

・雇用:2030年までにクリーンエネルギー関連で1,400万人の雇用が期待される反面、石油・ガス・石炭では500万人が失職する

・投資:2030年までにエネルギーセクターが必要とする投資額は年間5兆ドル(GDP0.4%押し上げる効果も)

いかがでしょうか。足元で、気候変動政策を巡る各国の動きは目を見張る速さですが、加えて公表されたこの旗艦的な報告書についても、ぜひ理解しておきましょう。

  • TOPに戻る